煤払ひ

 年内は連休が無いので、本年の読書メモは多分これが最後。

 

 

カール・シュミット『陸と海 世界史的な考察』(中山元訳、日経BPクラシックス)・・・版元の名前で言うのではないが、ビジネス人が読んでもあれこれヒントを得られるのではないか(ただしこのシリーズ、誤植が多くて気になる)。地中海を内海として、真の「海型」とは異なることを強調する。とすれば日本海東シナ海、そして江戸・大坂を結ぶ南海路だって大洋型とは言い難い。近世日本は「鎖国」というより内海型の文明と見るべきなのだ。海への「実存的選択」をした同じ島国の英国とどこで、どう道を違えていったのか。すぐ隣に陸生王朝の強大なのがあったせいか。生松敬三・前野光弘訳よりはるかに読みやすい。中山さんだから当然といえば東南なのだが。それにしても、『資本論』、ウェーバー『プロ倫』からシュミットまで一人の人間が訳すとは。呉越同舟というべきか。両極は一致する、と見るのが正しいのか。

○ヤーン・モーンハウプト『東西ベルリン動物園大戦争』(赤坂桃子訳、CCCメディアハウス)・・・動物よりはるかに強烈な“動物園人”の群像劇ノンフィクション。西ベルリン、つまり封鎖された街の住民はこれほど動物園に執着するものなのだ。『卵をめぐる祖父の戦争』(名品です)のデイヴィッド・ベニオフあたりなら、この題材で洒落たスパイ小説を書けそう。

○大槻真一郎『西欧中世宝石誌の世界 アルベルトゥス・マグヌス『鉱物書』を読む』(八坂書房

池内紀『ドイツ職人紀行』(東京堂出版)・・・池内さんで、「ドイツ」で「職人」で「紀行」なんだから、面白くならない訳ないよねー。

岩下尚史『名妓の資格  細書・新柳夜咄』(雄山閣

イングリッド・ローランド, ノア・チャーニー『「芸術」をつくった男』(北沢あかね訳、柏書房)・・・『列伝』のヴァザーリの伝記。絵も描き建築もした、というくらいの知識しかなかったが、いやチョコマカとまめに動いてますな。なにせルネサンス期だから教皇はじめとするパトロンの機嫌も取り結ばねばならないし。第三部の章題でもある「センプレ・イン・モート(絶えず動く)」そのままの生涯。あとブファルマッコという、抜群に器量のある、でも真面目に仕事をせずに人をおちょくったり遊蕩したりで人生を終えた画家のエピソードがまことに哀れ深い。惻々たる思いでヴァザーリは彼の生涯を叙した、と観る著者の推測はおそらく正しい。

○ヨゼフ・クロウトヴォル『中欧詩学』(石川達夫訳、叢書ウニベルシタス、法政大学出版局

○ヘイドン・ホワイト『メタヒストリー  一九世紀ヨーロッパにおける歴史的想像力』(大澤俊朗他訳、作品社)・・・原書は拾い読みのみ。邦訳でようやっと通読。ノースラップ・フライ以上の大ホラ吹きがいようとは(これ、必ずしも貶下するに非ず)。いかにもアメリカの学者、という感じがする。当方は文芸批評の一冊として読みました。

○工藤好美『叙事詩と叙情詩』(南雲堂)

池上俊一フィレンツェ 比類ない文化都市の歴史』(岩波新書)・・・「京都嫌い」があれだけ受けたのだから、フィレンツェ嫌い、を謳った一冊があってもいいのに。いかがわしいヴェネツィア贔屓としては、そう思う。

○ジェームズ・フランクリン『「蓋然性」の探求  古代の推論術から確率論の誕生まで』(南條郁子訳、みすず書房)・・・数学的明証性に対する蓋然性ということであれば、人事百般の“論理”はこれに該当する。読みながら、つねに文学研究の方法が念頭にあった。

丸山健二『真文学の夜明け』(柏艪舎(星雲社発売))・・・すさまじくパンチ力のある阿呆陀羅経と言おうか(貶下して言うに非ず)。同じ趣旨を繰り返されてもともかく最後まで読ませるものなあ。文学はともかく文章、と言い切るのも納得。『白鯨』好きというのは意外であった。

○古田徹也『言葉の魂の哲学』(講談社選書メチエ

高橋睦郎『つい昨日のこと 私のギリシア』(思潮社)・・・典雅な詩集。

ジャン・グロンダン『解釈学』(末松壽他訳、白水社文庫クセジュ)・・・二三箇所、ふむふむと感心した覚えがあるが、酒を呑みながらだったので、メモしていない。

○エリック・ホブズボーム『20世紀の歴史 上下』(大井由紀訳、ちくま学芸文庫

アントニー・D・スミス『ナショナリズムとは何か』(庄司信訳、ちくま学芸文庫)・・・文庫オリジナル。

 あと、本の本が三冊。

○宇田智子『市場のことば、本の声』(晶文社

林哲夫他『本の虫の本』(創元社

青木正美文藝春秋作家原稿流出始末記』(本の雑誌社

 

 

「芸術」をつくった男

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