えんぶり感傷旅行(3)~東奔西走~

 

 


 月をまたいだのではどうも間が抜ける気がするので、残りの三日をまとめて記す。

【某日】

○昼 十三日町『Porta Otto』へ。ランチが有名で人気なのも分かる。肉・魚・野菜で十二、三種類はある前菜の盛り合わせにパスタ(鱈と菠薐草のトマトソース)、食後のコーヒーで千円です。前菜でゆっくり白ワインを啜っていたかったがなにせ次から次へと客が入ってくるので、グラス一杯で席を立つ。今度は夜に来よう・・・ああ、でもその前にやはり『Casa del cibo』に行きたい。。。

 午後は是川縄文館へ向かう。青森県の国宝は三点で、全部ウチにあるというのが八戸市民の誇り。なかんづく合掌土偶には、元々縄文文化(一万年続いたのだから文明と呼んでいいのでは?)に関心があったせいで、気になっていた。こころ任せ、足任せで行動するものだから、これまではバスの時刻に合わなかったのである。

 予想どおり鯨馬以外に客はおらず。ここでものんびり見て回る。途中から驚歎の域を超えて何やら可笑しくなってきた、というのはここの所蔵品(少なくともこの日展示されている物)はほとんどが重要文化財なのである。十点や二十点という数ではありませんからな。別に文化庁の権威に打たれたわけでなく、それだけ状態の良く、当時の生活・技術がうかがえる品、要するに縄文の息吹の濃い品々に文字通り取り囲まれていると気が遠くなってくる(それにしてもよく呆ける旅ではある)。赤い漆で仕上げられた器や精緻な玉の装飾もいいけど、やはり土偶が一等面白い。静寂な館内、薄暗い照明の下、奇っ怪な紋様を顔にも体にも彫りつけた土偶を見つめるのは結構エネルギーを要する経験。こちらの脈拍もリズムを乱されそうな錯覚に陥る。岡本太郎のようにバクハツする芸術的感性は無けれども、にわかに詩興動く。即ち一句。

 春寒や土偶の咒言聞き得たり  碧村

 行きはよいよい帰りはこわい。館を出てみれば果たしてバスが来るまで一時間近くあるのだった。ナビ子ちゃん(©ビーストウォーズ)に調べてもらうと一時間あれば中心街に戻れそうである。幸い天気もよし、と歩き出す。一体にこの旅ではむやみに歩いたなあ。あれだけ暴飲暴食して戻っても体重が全く変わってなかったのは昼間にだいぶカロリーを消費していたせいではないか。

 途中人っ子ひとりいない山道に連れ込まれて慌てたが(大丈夫なのか、ナビ子ちゃん!)、やがて住宅が現れ始め、長者山の馴染みの姿が見えて一息つく。この日もやっぱり銭湯でうつらうつら。旨いもん食べるより名所観るより、こうして明日のこと考えずにぼーっとしていられるのが旅のいちばんの功徳なのかも。

○夜 でもやっぱり旨いもんは食べたいのである。夕景向かったのは『南部もぐり』。今回初めて予約出来た。大将の貌つきが、何と言いますかいかにも南部のオジサンという感じで、寄らば切るぞ的な空気も漂わせつつ、でも料理の減り加減をさりげなく見ながら次を出してくれるという按配で、たいへん気持ちよく呑めた。ハッカクの刺身とソイ煮付けが良かったな。黒板にびっしり「出来ますモノ」が書かれているのは、青森市は本町『磯じま』と似た感じ(津軽と一緒にするな!と怒られそうだが)。その十分の一(二十分の一?)も征服出来なかったのは慚愧の至りでありますが、まあこれから何度か足を運んでちょっとずつ、と考えて心落ち着かせる(←季節による入れ替わりを失念している)。

 なんとなく呑み足りない感じで、二軒目には勿体ないけど、ロー丁『鬼門』へ。四回目の訪問となる。熱燗で「鱈ぎく(白子)」とにしん・昆布の煮物、クリガニなどを。鯨馬の関西は緊急事態宣言が出てるだけに「出てるうちは控えよう」と、分かりやすく客足が減っているのであるが、地方の不景気は外からの強制(要請てんですかね)が無い分、いっそう深刻である。心が痛む。せめてもの貢献と思って何度も何度も熱燗のお代わりをお願いする。

 長横町も酔客より客引きのにいちゃんの方が多い。切ないなあ。と呟きながられんさ街『だし選人』でかしわうどんを啜る。いい感じの店で、嬉しくなってハイボールをごきゅごきゅ呑む。

【某日】
○朝 ドーピングの効あって、朝六時前には起床。さっとシャワーを浴びて、バスで湊方面へ。八戸に行ったことのない人でも知ってる『みなと食堂』だが、ここにも人影はない。いささか悄然としながら平目漬け丼(エンガワ半分の豪華版)を、でもやっぱり旨いから掻き込むようにして完食。

 腹を落ち着かせてから駅前の市場に行って、ここでは酒。しめさばも鰊の大根漬も三百円以下。真鱈の子の醤油漬けが、見た目に反する薄味で殊の外酒に合う。帆立の味噌汁を追加してコップ酒をごきゅごきゅ呑んでいると、さすがに満腹。

 コーヒーが呑みたくなり、隣の「観光案内所 コーヒー」の看板を出した建物に入った。

 地域のジイサマバアサマのたまり場、もとい社交場とおぼしい。かろうじて「コーヒーください」「神戸から来ました」という会話は通じたものの、鯨馬の周囲は南部弁の瀑布という様で、またこの南部弁がちっとも分からないのですね。分からなすぎて、もう、なにやら噴き出すのをこらえるのに必死、というくらい。

 おかげで、少しく憂愁にしめりがちだった気分に薄陽がさしてきた按配。おそらく酒の勢いもあったのでしょう、そのまま蕪嶋神社まで足を伸ばしたことでした。書きながら気付いたのですが、結構普通に観光客してますな。

○昼 うーむ。この旅で唯一失敗した店であった。大将も女将さんもたいへん感じのいい方だったぶん、余計具合が悪い。

○夜 再び『漁BAL湊のいろは』。一昨日は「真鱈のアラ汁」(豪壮)と「鰯のサイコ汁」(大根おろしが入っている。清爽)だけで、「くじら汁」(大好物なのです。鯨馬だけに)を頼んでいなかったことを憾みとして再訪。この日は「サメの卵」なる珍品が出た。店長も食べるのはこの日が初めてだそうな。葱とスクランブルエッグのように炒りつける。生臭みはちっともなく、チーズや生クリームのようなコクがある。摘まんでるうちから血行が良くなってくるみたい。やかん酒を当たるべからざる勢いでやっちょりますと、オーナー(店長とは別)が現れて「そこら辺で止めときませんか」ときた。酒品の悪いほうではないのに・・・と憮然としていると、「今晩町に泊まって呑む用事がある。差し支えなくばこれからご一緒に如何」とのお誘いだった。

 このあとがすごかった。『いろは』もたいがいですが、絶対に観光客が寄りつかないエリアの、寄りつかなさそうなお店で、でもどちらも安くて旨くて話も面白くて、最初の店はすこーし床が傾いているのも欣快の至りというところ。
 
 「まだお連れしたい店ありますよ」「もういいんですか」「行かなくていいんですか」という天使(堕天使)の囁きを振り切るように謝絶して、ようようホテルに帰り着いたことではありました。南部の夜は、深い。《了》

 

見よ、この雄姿。@南部もぐり

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途中まで写真撮るの忘れてた。もっと鳥肉がのっかってた。@だし選人

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再び見よ、この雄姿。タマゴやから雌姿か。@いろは

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