La Serenissima

 嬉しい遊びごとが打ち続いて、ないことにこの月の休みは忙しく過ごした。そのせいかだいぶん精神の平衡は取り戻せたよう・・・いやこれはやはり話が逆で、「しづごころ」を以て見るからこそ花も一層うつくしく咲きみちるということなのだろう。

 ともあれ芋煮会にご参集くださった呑み友達の方々、穴子会主催者のお二人様、そして近江は栗東Ronronnementの前ちゃんえみさんありがとうございました。

 恒例の穴子会とロンロヌBBQはプロの仕事だから(前者は厳密にはプロではないけど、あのレベルをプロとしないのは経歴詐称?みたいなもんである)別格としても、拙宅での芋煮会、初の試みながら、そして自画自賛になってしまうけど、上按配でありました。イモとニクを醤油で煮た汁なんだから、これは別に料理上手でなくても旨くならない方がおかしいわけで、それを乾いた風が吹き抜けるなか(そして磨き立てたような青空の下)、気の置けない面々と酌み交わしながらわあわあやる愉楽といったらない。これは来年も必ずやるべし。そこで一句。

 芋煮する風の河原の白きこと 碧村

 実は今日もそして明日もまた楽しみな予定が入っているんだけどね。来月あたり死ぬのかおれは。


岸本佐知子『わからない』(白水社)……今回も岸本節炸裂、もはや円熟の境地。いやこれを円熟といっていいのかどうか。ともあれいつものようにほぼ毎ページで「膝カックン」していただきました。
徳永康元ブダペストの古本屋』(筑摩書房
青木正美『古本屋控え帖』(東京堂出版
反町茂雄『一古書肆の思い出』1~5(平凡社
反町茂雄紙魚の昔がたり 明治大正篇』(八木書店
反町茂雄紙魚の昔がたり 昭和篇』(八木書店
 ⇒以上は毎度お世話になっております、神戸市中央図書館の特集コーナーから。反町茂雄の著書はもちろん学生の時に読んでいたが、まとめて並べているのを見ると懐かしくなって借り出した。やっぱり戦後の売り立ての報告が凄い迫力。
◎飯野亮一『晩酌の誕生』(ちくま学芸文庫
◎ジェフ・ニコルスン『食物連鎖』(宮脇孝雄訳、早川書房
◎バーナード・ウィリアムズ『恥と運命の倫理学』(河田健太郎他訳、慶應義塾大学出版会)……古代ギリシャにおいて「倫理」、つまり主体的決断に伴う責任が成立するか。人類学宗教学の潮流では否定されがちだが、著者は敢然とその見解に反駁する。
◎古田徹也『不道徳的倫理学講義』(ちくま新書)……副題は「人生にとって運とは何か」。いつか哲学やってる知り合いに「偶然」て哲学ではどう位置づけられてるのか訊いたところ、渋い顔をされた。言語学の専門家に「言語の起源は」と問うようなものか。上記ウィリアムズ著書とは違う切り口でこの難問を哲学史的に整理する。
◎クリストファー・ボグラー『作家の旅 神話の法則で読み解く物語の構造』(府川由美恵訳、フィルムアート社)
◎川瀬智之『東京藝大で教わるはじめての美学』(世界文化社
鹿島茂『パリの本屋さん』(中央公論新社
高遠弘美『楽しみと日々』(法政大学出版局
近藤瑞木『江戸の怪談 近世怪異文芸論考』(文学通信)
高橋睦郎『詩心二千年 スサノヲから3.11へ』(岩波書店)……『平家』にあって『太平記』には淡い鎮魂の要素を担ったのが猿楽能ではないか、など大胆な推論を多く含み、詩歌の鑑賞とともに楽しめる。
◎『19世紀ロシア奇譚集』(高橋知之訳、光文社古典新訳文庫
◎濱野靖一郎『「天下の大勢」の政治思想史』(筑摩叢書)
モーリス・ブランショ『文学時評1941ー1944』(郷原佳以他訳、水声社
◎堀川貴司『詩のかたち・詩のこころ   中世日本漢文学研究』(文学通信)
笙野頼子『金毘羅』(集英社
◎小川哲『ゲームの王国』上下(早川書房)……最後五分の一くらいが駆け足の説明調になってるのが惜しまれる。ともあれ、オレはこういう知性を武器に生き抜いていこうという主人公の小説が好きなんだなと改めて実感。池上永一の『テンペスト』とかね。もちろんこれに大西巨人神聖喜劇』も入る。
◎サイモン・セバーグ・モンテフィオーリ『スターリン  赤い皇帝と廷臣たち』上下(染谷徹訳、白水社)……ヒトラーの伝記は全然読んだことがないくせに、スターリンのはちょくちょく目を通している。大粛清の謎(なんであんなに「順調に」いったのか)を自分なりに考えたい、というのは無論ある。が、上記の論法で言うなら、明らかに無教養なヒトラーにくらべ、どこかで大読書家スターリンに惹かれてる部分もなしとしない。二十世紀最悪の独裁者に惹かれてるなんて口にしたくもないけど、なにせワイルドやサッカレーまで読み、ビスマルクタレーランから自在に引用できたというのだからただごとではない。マンデリシタム、パステルナーク、ブルガーコフの三人を天才と認めていたというのも何か異様に感じがある。