八戸の朝飯で『みなと食堂』を出してくるのは、太宰治では『人間失格』が好きです、とか朝のニュースはNHKです、とかいったヒトの顔を見てられないような気恥ずかしさがぬぐえないけど、やっぱり他に替え難い(太宰は『津軽』や『御伽草紙』に替えられます)。案の定りん王子は漬け丼・せんべい汁に舌鼓を打っていた。
しかしこの朝の主役は実は名店ではなく、隣の陸奥湊小売市場にあった。精々シオカラかツケモノでも摘まみながら・・・と思っていたけど、おそらくは二十代の熱量がうつったんでしょうな、いつの間にかかつお刺身・いか刺身・さば燻製・紫蘇巻・にしん麹漬を買っていたのでした(ビールと日本酒が伴っていることは一々ことわりません)。このうちの尤物がかつおで、今写真を見ながら数えてみたら九切れもあったのに、そしてともに大抵腹がくちくなっていたのに、ぺろりと平らげてしまったのだった(実際に食べ終わるまで刺身の角がぴんと立っていた)。
来八も重なって大概行き尽くした鯨馬、もとから名所旧跡の類に全く関心がないりんのふたり旅とて、どこも見物しなかったけれど、どうしてもここだけは。昼食までの時間で鯨馬ひとり、長者山新羅神社に詣る。八戸にまた来られたことを感謝し、来年のえんぶりも、とお祈りする。
『やぶ春』が閉めたのはかえすがえすも惜しいことながら(小海老のかき揚げでビール飲む時間がこたえられかった)、いったいに蕎麦屋には恵まれた町である。そばまえの充実を以て今回は『鶴よし』を選択。そばぬかのぬか漬け、板わさ、馬すじの煮込みなどで燗酒をゆっくりと。電話予約のときに頼んでおいたぬか漬けはいつものように旨かったが、自分ひとりではまず頼まないであろう煮込みが良かった。香り高くこくのある味噌が絶好のアテとなるのである(南部玉味噌かな?)。
蕎麦湯を飲み終えるとちょうどバスの時刻になったので、急遽湊の八戸酒造蔵見学に向かう。これで「観光」の義理は果たしたこととする(何の義理やら)。試飲で二人ともボンサーブ(青森産の牛乳を使ったリキュール)を旨く感じたのは、(あろうことか)日本酒に飽きてきたということなのであろうか。
いや、やっぱり錯覚でしたね。中心街に戻ると立ち飲みの新鋭『ひろがる酒店』で飲み直し。夏至あとの輝かしい午後のそともを眺めるともなく眺めながら酒をふくむ喜びといったらない。まして横では王子が動物園の子熊みたいに広い店内をうろうろしておるし。
ホテルでは三十分ほど休んでから次の会場へ(売れっ子アイドルのようだ!)。イベントは夏酒まつり。場所はマチニワ。ま、ここは参加することに意義があるみたいな感じやな、とうなずき合って早々に『ばんや』へ。案の定、りんは店の趣を喜んでくれていた。ざるめ昆布と身欠きにしんの煮物、馬肉と新ごぼうの味噌煮、蛸の白子、蕗と蕨の煮物、それにイシナギの刺身と〆さば。さすがにこの時期の鯖にあぶらはのってなかったが、ともかくここは煮物がよろしい。おっさんは蕗、りんは昆布推し。
この夜、後半嵐の如し。(つづく)



