2018-01-01から1年間の記事一覧

器の方円

梅田阪急「暮らしのギャラリー」での飯茶碗・湯呑み展に行ってきた。時間をかけて選んだ結果が、つくも窯・十場天伸さんの飯椀と小代焼ふもと窯・井上尚之さんの湯呑みというので、我ながら可笑しい。いつも『いたぎ家』で手に取るものばかりなのだ。アニー…

煤払ひ

年内は連休が無いので、本年の読書メモは多分これが最後。 ○カール・シュミット『陸と海 世界史的な考察』(中山元訳、日経BPクラシックス)・・・版元の名前で言うのではないが、ビジネス人が読んでもあれこれヒントを得られるのではないか(ただしこのシ…

双魚書房通信(20)~少年は歴史を動かした 『エドガルド・モルターラ誘拐事件』

山本夏彦曰く、「人生は些事から成る」。とすれば歴史もまた些事により動く、と言ってよいかどうか。 そうかも知れない、と本書を読み終えた人の多くは思うだろう。舞台は一九世紀のイタリアはボローニャ。ある夜、ある一家のアパートに、複数名の警察官が突…

オヤジ殺しエッシャー地獄

あべのハルカス美術館のエッシャー展。初日はそう混んでいなかったが、前の北斎展のように段々評判が広がって最後はとんでもない行列となるかもしれない。それくらい充実した展覧だった。ご興味のある方はお早めにどうぞ。 無限階段の塔にしても手を描く手に…

片月見

「災害並みの猛暑」だって冷房の効いた部屋でソファに寝っ転がってりゃ本は読めるし、厳冬といえども床暖房に寝っ転がって(どのみち寝転ぶ)読書するのはむしろならではの愉悦。 だから灯火親しむなんて他人行儀な口実を作らなくてもいつだって本は読めるの…

磯の小石のように~青森再々々訪(3)~

二日目の晩だけは予約していたのだった。ほけーっと歩きながら感じの良さそうな店に入るのこそ無論醍醐味なのだが、限られた日数の旅行者としては、どうしても保険をかけたくなる。 「あそこも混むよ」と言われていたとおり、本町の『磯じま』は変哲もない住…

青い森の紅い森~青森再々々訪(2)~

翌朝は惚れ惚れするような宿酔。ホテルの朝飯も、炒り卵と味噌汁とコーヒーというアヴァンギャルドな組合せですませる。それどころではないのだが、なんか腹に入れとかないと途中でぶっ倒れるだろうから。 ゾンビの如きカラダを引きずって、駅前のバス乗り場…

ミュゼめぐり~青森再々々訪(1)~

四度目の青森。訪れた回数なら金沢の方が断然上だが、半年の間にこれだけ行った地方は他にない。 前とその前は八戸だった。今回は青森市。二回目となる。いつものことながら、何もしない為に何もない時期を選んで行った。 機内のアナウンスでは神戸より四、…

素人包丁~ひとり月見の巻

親譲りといふのでもない偏窟で小供の時から損ばかりしてゐる。わざわざ前夜に観月料理をつくって見ようと思いついたのもそのせい。 別に損はしてないか。日本の料理はなんといっても季感が要なのだから、そして月と花とは風物のなかの両横綱といってもいいも…

ヌリカベの日

左官屋稼業、始めました。一日限定だったけど。 『いたぎ家』の改装を手伝ったのだった。アニは「大規模じゃないっすよ」とか言っておったが、壁を塗り替え、床板を貼り替え、カウンター席の棚を撤去し、テーブル席の荷物置きをつくり、トイレの入れ替えまで…

灼熱BBQ

メリケンパークでのBBQイベント。出店は《神戸オールスターズ》といっても大袈裟ではない顔ぶれだったから、店の名前を記録のために掲げておく。 モゴット、柏木、梵讃、マメナカネ惣菜店、clap、寿志城助、嘉集製菓店、la luna、クチヅケ イル…

御位争い

盆の時期は出勤にしてもらって、業者も来客もないしづかな職場で溜まった仕事を片付ける。その分は秋頃に旅行の為に使うことが多い。先週末の三連休はだから、当分は無い連休だったのだけれど、旅行はおろか一歩も家を出ずじまいだった。『ゲーム・オブ・ス…

魚菜記

八戸から戻ってこの方、神戸にいる自分がどこか「虚仮なる人」のように思えてならない。向こうの最高気温が二七、八度なんどという情報を見るにつけ、余計にそう思う。あまりの暑さで、近所の平野祇園神社の祭礼にもお詣りしなかったくらいだものな。御許し…

ウミネコの島~南部再訪(2)

宿酔なんぞは気の持ちようである。と気を持ち直して朝から温泉に浸かり、朝食のせんべい汁を啜ると、重苦しい酔いの残りはどこかにすっと消えてしまった、という気がする。 それこそ前回は二日酔い、というか寝不足で種差海岸に行けなかった。今日こそ行くべ…

北の語り部~南部再訪(1)

何せあのおっそろしいような大雨でしたからね。十分遅れた程度で飛行機が飛んでくれただけでも有り難いと思わなければならぬ。雨も二泊三日の旅の最終日にやや強めに降ったくらい。総じていい条件だったと言えるでしょう。 青森は比較的短い期間で三度目とな…

水無月獺祭

ひと月ぶりの更新。いい店何軒かを見つけたが、それは別の機会に書きます。とりあえず溜まってた読書メモから。年数積もると、コレステロールと同じように、「生きてることの塵(垢?)」と言うべきものが嵩を増してきて、暢気ブログを更新する閑暇さえなく…

鶏の叫ぶ夜

『いたぎ家』アニーにお誘い頂いて、アニーヨメー、タク、そして木下ご夫妻(当方同様『いたぎ家』の客)の六名で一日滋賀に遊ぶ。前回の滋賀遊びから二年経っている(拙ブログ「KG制覇計畫・其ノ壱」)。天気・気温・湿度申し分なし。 手始めに浜大津駅の…

上等な五月の夕餉

油目の新子が出ていた。油目がそもそも好きな魚だが(造りはもちろん、椀種にするとすごい実力)、成魚の方は最近あんまり見かけない。東京湾ではすでに「幻の魚」になっている、とテレビ番組で言ってたような気もする。 獲れなくなってるところに、新子を流…

危機の思想と思想の危機~双魚書房通信(19) 牧野雅彦『危機の政治学 カール・シュミット入門』(講談社選書メチエ)~

有名だが、多数の読者に支持されているというよりも、いくつかのエピソードの霧が当人をもやもやと包み込んで、それがいつの間にかこれまたいくつかの評語をまぼろしのように吐き出して、それらをあまり意味も無く呟くことがすなわち論じるということにされ…

姫と白狐と満開の桜と

四月文楽公演は昼の部に。夜の演目は『彦山権現誓助劒』で、仇討ちモノは好かないからである。つまり消極的な選択だったのだが、これが幸いして、「道行初音旅」も『本朝廿四孝』も楽しめました。ついでに言えば、仇討ちモノでも『仮名手本忠臣蔵』は別。大…

雉が芹しょって。

某日は「海月」敬士郎さん夫妻と「ビストロ ピエール」へ。雉のローストとリゾットが素敵に美味かった。ワインもじゃかじゃか呑んで、前回同様首をひねりたくなるような安さでした。 翌日、リゾットの仕上げに使っていたチーズを買いに、宇治川商店街の「ス…

南部ひとり旅(3) 迷宮にふみこむ

舘鼻の岸壁朝市には、ま、色々あって行かず。種差海岸とともに、次八戸に遊んだ時の楽しみとしておく。朝市の代わりに、看護師が教えてくれた八食センターへ足を向けた。中心街からタクシーで二十分くらいか。水田のまん中に無闇にでかい建物が立っている。 …

南部ひとり旅(2)狂人・ミロク・シャカ・天使

実際、翌朝はすかっと目覚めたのだった。ホテルの朝食もおいしく頂いた。ご当地料理の代表格であるせんべい汁というのがたいへんよろしい。鶏や昆布でしっかりとった出汁に大根人参葱牛蒡、そこに南部せんべいがぬめっとてろっと浮かんでいて、これなら二日…

南部ひとり旅(1)聖地巡礼

今回は八戸中心の旅なのに、三沢ではなく青森空港発着で予定を組んでしまったところに、当方の無知があらわれていた。空港からバスで青森市まで。そこから電車を乗り継いでいくと、八戸での昼食は無理そうである。ならば二月ぶりの青森で食べていきますか。 …

たてよこななめ

誕生祝いのメッセージを下さった方々、この場を借りて改めて感謝申し上げます。張龍・風意のお二人、素敵なプレゼントをありがとう。 過日はこれまた思いがけない贈り物も。うらうらと晴れた昼、『かね正』で下地を入れていつものように『ふみ』に向い、ボー…

贋作・雛料理

好きな季節が終わった途端に花粉症が始まって気分までどんより。元々メランコリイが昂じる時分ではあるし。家にメンはおらんがせめて桃の節句にかこつけた料理を作って自ら慰めるべし。 ただし今年は仕入れの都合上(出勤だった)、古式には遠く、すなわち題…

加賀を夢見る

東京方面と外国からの観光客で殷賑を極める金沢に足を向けることが少なくなった。大好きな町が熱鬧の巷と化したのは見るにしのびない。それでも、というよりだからこそ、お茶を啜ったり布団にもぐりこんだりしぼんやりしてると、長町を流れるせせらぎの音や…

初午プラスワン

初午の膳の下ごしらえは前日に済ませたおいたというのに、友人の誘いで三宮へ。向こうは誕生日前日。普段「メシ喰わせろ」と強要している相手なので、ここぞとばかりに焼肉をおごらされた。 で、お稲荷様にゴメンナサイして本日、つまり初午翌日に改めてこし…

アーダに首ったけ

じつはここんところナボコフの『アーダ』(若島正訳)がめっぽう面白く、ずっぽりハマってしまっているのだが、さて書評書けるかなあ。とりあえずは溜まった本を整理しておきます。 ○松浦弘明『イタリア・ルネサンス美術館』(東京堂出版)・・・ふと思った…

枕の中から囁く声は~双魚書房通信(18) ミシェル・ウエルベック『H.P.ラヴクラフト 世界と人生に抗って』(国書刊行会)~

『服従』で世界を騒然とさせたウエルベックの、最初の本。ウエルベックとあの怪奇な神話の創造主との結びつきがもひとつ分からないままページを繰ると、スティーヴン・キングの序文(二〇〇五年版)がある。 自分で書いてて怖くなったことはあるか。これはホ…