雀太さんの粗忽長屋

 喜楽館の前は頻繁に通るけど、落語を聞くのは本当に久しぶり。『いたぎ家』アニー、それにじゅんちゃん、お誘いありがとう。八月最終週は「喜楽館AWARD初代優勝者・桂雀太ウィーク」ということで、もちろん雀太さんがトリなのだが、初めて聞く桂福楽さんの落語がよかった。演目は『上燗屋』。演出次第であくどくなりがちなこの噺をうまく聞かせてくれた。といってもそこはやっぱり上方落語、酔客のからみ方などはこってりたっぷりで演じる(落ちた煮豆を摘まむとことか)。しかも変に生々しいのが笑える。突然怒り出すところなど、いかにも新開地に居そうな感じ。うがち過ぎかもしれないけど、噺家本人の屈折が微妙な味わいになっているのではないか。

 あと、色物の代走みつくになるピン芸人。怪演と申しましょうか、狂気すれすれと申しましょうか・・・なんか最後は小屋ごとみつくにさんのペースに巻き込まれたようで、ピンマイクを使った物真似芸は拍手喝采という空気になっていた。※雀太さんによると「20年前からまったく変わってない」らしいです。

 さて雀太さん。同行したりょうこちゃん(アニー夫妻の友人で、鯨馬も店で会って仲良くなった)は熱烈な雀太ファンらしい。それ以外にも雀太さんの追っかけ?推し活?の方が多数で、出の時から異様に盛り上がっていた(ちなみにこの日は千秋楽)。

 この噺家もはじめてながら、弁慶格子の着付けで座布団に少しいがんで(斜めに)座った恰好を見てあっ、と目を見張る。大師匠に当たる枝雀そのままの雰囲気なのである(師匠は雀三郎)。この直観は当たってたようで、そのあとのまくら(自分の双極性障害のはなしや、人生の不可解さ)も、『粗忽長屋』も枝雀落語のエッセンスを蒸留したような高座だった。エッセンスとは、妙な間(これが可笑しい)や時折見せる、ぎくっとさせるような目つき(代走みつくにとは違った意味での狂気)、あと傍役がぽっと呟くせりふのおもしろさなどのこと。

 あと人物それぞれの、口調は言うまでもなく表情の克明な演じ分けは枝雀より上だと思うし、何より大阪、というより大坂ことばの見事さ(当方の職業柄、ことば遣いにはかなりうるさい)。語彙、イントネーション、言い回し、いずれをとっても髪の毛ひとすじのくるいもないリアルでかつ端整に様式化されたもので、ほれぼれした。ひとつの噺を練りに練り上げるタイプの噺家なんではないか。やっぱり落語は寄席で聞かんなりまへんな。

 昼席のあとは拙宅バルコニーでBBQ(アニーのリクエスト)。『かるむ』の相方も参加、いつものように彼がこまめに動き回ってくれたおかげで喜楽館を出て一時間半というスピードで開始することが出来た(いつも本当にありがとう)。料理では空芯菜のナムルの受けがいちばんよかったような・・・。ま、BBQの肉って最初のひと口だけであとはたいしたことないんですよね・・・と分かってたから、BBQのよこには鉄鍋をかけて、『かしわの川中』の鳥肉を焼いた。今回は軍鶏の雄。雄だからというわけではないだろうが、雄渾雄勁という味わいでした。この日は風が涼しく、心地よかった。景色も含めてこれがいちばんのご馳走だったと思う。八月最終日、いい休日となりました。