煉獄のカフカ

 パンダが妊娠したことがえらく報道されている。なんでも国内二例目なのだそうで。

 しかしよく考えれば、妊娠しないのが当たり前なのである。ふつう。とは自然状態では広い空間で雄雌たがいに心ゆくまで相手の品定めをしてからようやく一儀に及ぶところを、狭苦しい檻の中、ぱっと一緒にされた目の前の「こいつ」と、いきなりそういう関係になれると思うほうが間違っている。人間でいえば、エレベーターでたまたま乗り合わせた異性と「さあしろ」「はやくしろ」と急かされてるようなものである。あなたなら出来ますか。出来る、やってみたい、というヒトは、尊敬するというよりは敬遠したい。というより警察に突き出したくなる。パンダでもトキでもいいが、ああゆう環境であれだけの妊娠率とは、つまり彼らが異常に好色であることを意味するのだろうか。それとも逆?

 パンダの性欲と、人性の諸相に関する省察を繰り広げながら冷酒を茶碗酒でやる。魚屋ですこぶる眼の澄んで腹のしっかりした、つまり極々新鮮な鯖が出てたので、本日は半分をきずしに、半分は船場汁に仕立てて、それで呑む。あとは焼き茄子の唐辛子味噌、新レンコンのきんぴらサラダ(オリーヴ油で炒めたあと、出汁・酒少々と塩胡椒で味付け、カボスをしぼって)。

 半身に塩をしている間に船場汁のしたごしらえをする。こちらもきつめに塩を当てて一時間ほど置き、溶け出た水分を丁寧にぬぐったあと、一口大に切ってボールに張った熱湯に静かにおとし、霜降りにする。

 大根は付箋紙くらいの大きさに切って下茹でしておく。薬味はみじんの葱(関西なので青葱です)と茗荷。

 水に鯖と昆布を入れて十分ほど静かに煮立て、鯖を取り出した後、丁寧にアクをすくう。味見をしながら塩・酒で調え(醤油を使うと単なる魚の吸い物になってしまうので入れない)、大根と鯖を入れて一煮立ち。最後にほんの少しお酢を垂らすのがコツです。

 対手は井上ひさし『一分ノ一』と宮本啓一仏教誕生』。『グロウブ号の冒険』、『黄金の騎士団』に引き続いてこれまた未完。井上さんが生前どのようなペース、形態で小説を執筆したらしたか存じませんが、これだけ没後出版という形で未完の作が出されると、何かそこに意図的なものを感じ取ってしまう。ひょっとして井上ひさしはあえてこれらの作を未完のまま放っておいたのではないか、と。

 奔放なようで緻密に組み上げられた、そして至る所に《物語》の技巧をちりばめた作を読み進め、それが未解決のままぽーんと投げ出されたとき、この世界をいかに完結させれば面白いか、と想像したくなるのが人情というものでしょう。いわば読者参加型の《開かれた結末》を彼は仕掛けてあの世に去っていったのではないか。

 まったく証拠のない妄想ながら、一連の未完作の残闕の美を味わっていると、おのずとそう考えたくなる。

 明日は七夕。いささか不吉な願いながら、当方もあの世に引っ越した後は、こうした未完の作の続きを読ませてもらいたい。筆頭は『明暗』(これで完結しているのだ、という説もあるが)?『失踪者』?それとも・・・?

※ランキングに参加しています。ぜひ下記バナーのクリックをお願いします!
にほんブログ村 料理ブログへ
にほんブログ村

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村