犯罪者は北へと向かう〜金沢旅行(1)

 半年ぶりの金沢旅行、初日はともかく天候に祟られたという他なかった。半年も無沙汰というので白山の姫神さまがご機嫌斜めであった、と解しておきたい。大阪駅に着くと皆さまご存じのとおり、低気圧に伴う強風のせいで乗車予定のサンダーバードが運休しておる。ま、午前中いっぱいで回復するだろうと高をくくって、とはいっても駅で待ちっぱなしも辛いので、とりあえず行けるところまで参りましょうと、ちょうど出発する新快速に乗り込む。京都駅まで。そこからは普通車で近江塩津に。当方ごとき暢気な旅行者はさておき、血相かえたビジネスマンの方々がちんまりしたプラットホームにあふれかえっている。極楽とんぼもここに至って焦り始める。運行情報を確認するに、運休列車がどんどん増えてきている。こりゃ長浜あたりに一泊して鴨でも食うべいか。と考えながらも敦賀行きの電車を待ち続けているのだから慣性(惰性?)はおそろしい。つれづれのあまり、連句独吟を試みる。宙をにらんで眉をしかめているのだから、さぞかし悪天候をかこっているのだろうとはたからは見えただろうが、句を案じていただけのことである。おかげで空一面を舞い乱れる粉雪にも気を取られず電車を待つことが出来た。風雅の効用かくの如し。
 敦賀からはさらに普通車を待って福井まで。ここでも霰がばらばらと散っている。せめて越前そば・・・と思って改札を出、駅裏に行ってみると長距離バスのターミナルあり。!と思いついて切符売り場にかけこむ。「小松空港行きのバスはありますか」「先着順、定員を越えたらご乗車いただけませんので、お急ぎ下さい」。

 待合所にはすでに十何人が並んでいたが、バスには乗ることが出来た。やれやれ。

 空港からの金沢市内行きシャトルバスは通常通りの運行。とはいえ、飛行機の到着に合わせての出発だから一時間あまりも待たねばならぬ。「風雑り雨降る夜の雨雑り雪降る夜」と山上憶良気分、というほどの風雅なものではなく、霙まじりの風がますます強くなる中を立ち尽くしているのでは(一応屋根の下だが、ほとんど役に立たないのだ)間違いなく肺炎になってしまうだろう。困窮いたれば智恵また出づる。思い切って周囲の人に声をかけた。「金沢駅までタクシー相乗りと行きませんか」。幸い賛成してくれた方がいらっしゃったので、四人でタクシーへ。暖房もまたご馳走だと知った。

 北陸自動車道は小松から松任の間、日本海沿いを走る。車窓左手の海はひたすら暗く、波は高く、荒々しく波頭が砕けては白兎が跳ぶ。気の滅入るような情景だが、ふだんおんべんだらりと勤め人の生活をしている人間の奥底に潜む荒ぶる魂を揺り起こしてくれるような眺めでもある。今思い出しても胸がキュッとなる。etat chantantとはかかることなりや。そのせいかどうか、金沢に着くまでに、半歌仙を巻き上げてしまった。お笑いぐさに末尾に載せておきますのでご用とお急ぎでない方はご覧下さい。

 さて、このブログも金沢に着くまででずいぶんくたびれた。神戸からかかりもかかったり十一時間。江戸の旅の風情を満喫したとしておきましょう。チェックインしたあと、すぐに向かった『こいずみ』の天ぷらが旨かったのは今更書くまでもないとして、献立のいちいちを記すのはやめにする。この日とりわけよかったのは穴子(上質の焼き菓子のようにほろほろと溶ける)、厚岸の牡蠣(こちらは対照的にとろり)、それに能登椎茸(まるで鮑のように見た目も、そして味も立派なもの)と七尾の牛蒡。ここの名物の天ばらも全部は食べられず、包んでもらう。

 『こいずみ』のあとは近くのなかなか洒落たバーでカルヴァドスを呑むともうくちゃくちゃ。ホテルで熱い風呂を立ててゆっくりつかりベッドに入ったら、アラームをセットする間もなく眠り込んでいた。(つづく))

独吟半歌仙「海荒るゝ」の巻
〔表〕
海荒るゝ果てに見まほし雪の加賀(冬)      碧村
*「京まではまだなか空や雪の雲」(芭蕉)が念頭にあった。
枯田の他はたゞ無人駅(冬)
*これは実景。もっとも「無人」どころではなかったけれど。
パテイシエで海内無双の名を取つて(雑)
*田舎の少年、大志を抱いて都会に出る。そういえば和倉出身の辻口さんという高名なパティシエさんがいました。
家伝の塩を守る鯖鮨(秋)
*甘党に配するに辛党。これをしも対付けというべきか。
悪友の舌鋒老いぬ月の宴(秋、月)
*前句「鯖鮨」が出された同窓会で。
紅葉ブログは人気上々(秋)
*憎まれ口はたたかなくなった男が殊勝げなブログを書くのにハマっている。当方のことにあらず。
〔裏〕
ひとしづく微塵子世界蔵したり(雑)
*ブログの隆昌を見るにつけ、ミジンコがせせこましいところでちょこまかせわしなく泳いではなにかつぶやいてるようないじましい感じを覚える。これはもちろん当方も含めて。
夕日さびしき博物の家(雑)
*江戸の本草家が南蛮わたりの顕微鏡(そんなものあったかどうか)でミジンコの生態を観察してびっくりしている。
いつまでも隠れんぼうの鬼が来ぬ(雑)
*ちょっと叙情的。誰しもいちどはこんな感覚味わったことがあるはず。
眉のくずれを嬲るしのゝめ(雑)
*だいぶ世界が飛んだ。待ってた「鬼」=いろが来ないホステス、朝方には化粧もくずれて常客にからかわれている。こうしてみると、あんまり上等の店の風情ではありませんな。こちらのお里も知れるというものである。
二人して川音に飽く山の宿(雑)
*今度は恋人同士。前句とむすんでちょっぴりエロの雰囲気が出てますかどうか。
蛍しづんで月の残りし(夏、月)
*これはおとなしくその場の風景を。やや打越(前々句)ともつれるかな。
本陣にゐならぶ髭のいかめしく(雑)
*軍議の場面に見換えた。
盾の膾に斗酒とゞまらず(雑)
*同じ戦でもこちらは唐山、いわずとしれた鴻門の会。樊噲の見せ場。
湯豆腐を器用にすくふ毒殺魔(雑)
*「斗酒とゞまらず」に付けた。ま、時事ネタであります。湯豆腐と毒殺魔の取り合わせに俳諧味を見ていただきたい。
名誉の歌で刑場に散り(雑)
*毒殺魔の最期。
三ヶ津に花の舞台とほめそやす(春、花)
*芝居の見せ場と解して。なんぼ無手勝流の独吟とはいえ、花の座で実際の処刑場面をもってくるわけにはいかない。
幟の上は霞む晴天(春)
*芝居小屋は大入り。

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