かますを干す

 一年の内、秋が二百日くらいあればいいのにな、と、一年の内二百日くらいは思う。温暖化というよりは熱帯化しつつある日本の気候では、ますます秋の居場所は少なくなっている、とは誰しも肌身で感じていることだろう。

  しかし、その分だけ秋を満喫する気持ちも強くなるのかな。とすれば二百日も続いたんでは楽しみもないか。

  まあ、ともあれ、佳き季節を享受しましょう。

  この日の夕餉は、

  かます風干し
  焼き茄子と鶏皮と茗荷の胡麻和え
  落とし芋の味噌吸物
  ぶり大根

  味噌吸物はあるが、例によって飯は食べないので、これらの肴で酒を呑む。

  かますの干物は自家製。酢橘をたっぷりしぼる。これで炊きたての飯を食ったらさぞかしうまいだろう、うまいに違いない、と考えつつぬる燗を呑む。

  吸物の味噌は酒の対手だから薄めに。大和芋はすり鉢ですり下ろしたあと、さらにすりこぎでよくすってきめを細かくしておく。吸い口は青海苔。

  ぶり大根、これもウチでは酒飲みの口にあわせて甘味はごくごく控えめ。土鍋いっぱいの量を炊くのに、味醂は大さじ二杯くらい。清酒は逆にたっぷりいれる。味付けは昆布だしと淡口醤油で。間違っても肉じゃが風にならないように、「うま味はたっぷり、塩気・甘味はかすかに」が目標。ぶりからコクを引き出すために、圧力鍋は用いず、極弱火でことこと炊いていく。 

  秋やな、秋とひとりごちて、お銚子をもう一本つけることにした。岩波文庫の『陶庵夢憶』もちびちびと、なめるように頁を繰る。

  どんどん食材が出盛る時候、当ブログでも「献立日記」が増えそうです。

  さてここで読者の皆様にお願い一つ。何度も書いているとおり、(おそらくは末期にある)日本料理の「今」の全貌をなんとかしてとらえよう、そしてその記録を遺したいと考えているのですが、いかんせん個人ではそれにも限界があります。

  「これは日本料理の新しい方向性を示す料理だ」とか「こんなケッタイな料理がはやっている」といった情報をお寄せねがえないでしょうか。料理屋の献立でもよし、ご自身が考案された料理でもかまいません。ただし、当ページでは何かと制約もありますので、協力してやろうという方はfauconnord@kyp.biglobe.co.jpまでお願いいたします。