俳諧無茶修行またまた・坤の二

衣冠たゞして諫奏に出づ  碧
菜の花や配所の月もまる三年  桃
*諫奏した臣下が逆鱗にふれて流される。「罪なくして配所の月を見んこと」は風流の極致、前句の人物にしても不敬以外の罪はないから、ここで配所の月を出すのはある意味定石の発想。出るかなと思っていたら案の定出た。これはくさすのではなく、「よっ、待ってました」というところである。

若布刈るにも雅語を聽く嶋  碧
*三年の間に島の娘とも馴染みとなり、貴人の子孫が島に殖えていった、という付けだが、三句続いて人物が替わっていないきらいがある。ま、「その後」ということでご勘弁ねがっておきましょう。

アイスクリームを蝦夷と訓みし學者居き  桃
*ここから名残裏。「雅語」からの発想。生来不敏にして、この「学者」が誰とも分からなかった。師匠は後で、アイスクリームがアイヌクリームに見えたという、国語学金田一京助のエピソードを教えてくれた。

はだれの雲に一つ星かな  碧
*誰とは知らなくても、ともかく世事に疎い老人の面影は浮かぶ。そこで一つ星に我が身をたぐえて孤愁をかこつ姿をとりだした。だから「一つ星かな」だけで句意は尽きている。「雲」をあしらったのは、冗談ではなくアイスクリームからの連想です。我ながらいい加減というか・・・。

びょうびょうと天の狼牙を噛む  桃
*「天の狼」は天狼星、つまりシリウスのこと。「一つ星」をシリウスと見たわけである。「びょうびょう」は擬態語で犬の遠吠えを表す。

寶石(いし)に香料積みし船團
*「びょうびょう」は「苕苕」という字を当てれば、水面の果てしなく続くさま、という意味にもなる。で、海を出した。ここは苦心の作。師匠から「南」へ舵を取ってほしいというメイルがあった。ま、シリウスは南の星だからそれで構わないんだけど、単に船を出すだけだと前々句から光景が動きません。で、牙を噛んでる狼すなわち、いずれ東南アジアを植民地することになる西欧列強という意味をこめて「宝石に香料」としたのである。ちょっと分かりにくかったかなあ。師匠にも「いけませんでしたらお申し付け下さい」と書き添えておいた。にしてもわざわざ「南」を場面にしたい師匠の企みは何々ぞ(わざわざというのは、次が名残の花の座だから。南では花を出しにくかろう)。自分の付けの出来具合も含め、気になる所だがここで小休止。二泊三日の旅に出たのである。

熱帶の乙女ら悲し乳に髷華
*帰ってみるとこの句が届いていた。ああ、乳飾りの華ね。ここは師匠自注をそのまま引かせていただく。いわく、「初案では、「髪にうず」なりしが、桃色ジイサンの名にし負わば」。名にし負ふ句作りでございます。それにしても、この花の句からどう挙句につなげる。

火山も笑ふ樂園の夢
*挙句はなるたけさらっとしてないといかんのだがなあ。前句が前句だけに多少の破格は仕方ない。ここはゴーギャンを裏に秘めて付けた。いうまでもないですが、「山笑ふ」は歴とした春の季語。まずまずめでたい絵柄にはなっているか。前の両吟歌仙に比べ、やや破天荒な運びになったような気もするが、お互い(お師匠さまたびたびの無礼お許しを!)生地を出してきたということなのかもしれない。

次回は旅の報告になります。

※ランキングに参加しています。下記バナーのクリックをよろしくお願いします。


ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村