大学の先輩・後輩(いずれも連句仲間でもある)と『播州地酒 ひの』で呑む。はじめの「奥播磨」が旨かったな。吟醸のくせにひよわな感じがなくて、肴に合う点が気に入った。刺身(しめさばが絶品)、名物ポテサラ、蒸し穴、蓮根天ぷら(歯触りを最大限引き出せるようにごろごろと切っている)、おでんどれもよろしい。大将のあしらいも快く、店員の笑顔も可愛らし。来週とてもお洒落な新店舗に移転するそうな。今の店のアンチームな雰囲気も捨てがたいが、愉しみである。
気分よく酔ったので、先輩を続いてシェリー・バーに案内する。ここではあまり呑まず、ひたすらしゃべる。西鶴の解釈などについて論じたような気がするのだが、翌日になってみるとすっかり内容を忘れてしまっているのが愉快である。
最近読んだ中で、上質の入門書にたまたま続けて出会った。一冊目は井筒俊彦『コーランを読む』(岩波現代文庫)。あの聖典の、「開扉」という章、おどろくなかれたった七行の本文を四一二頁にわたって延々と「読んで」いくのである。一つ一つのことばを支える世界観―世界感覚と言ったほうが正確かもしれない―を語学的注釈、『コーラン』の自在な引用、宗教学的分析などなど、様々な武器を繰り出して精緻に再現していく。一歩間違えたら衒学趣味が鼻につくところだが、さすがは碩学、悠々と解き来り、解き去るという風情を漂わせている。イスラーム出現前の「存在の夜」の不気味さ、アッラーは最高度の光と静けさと幸福さそのものであるという神観、またイスラームという宗教の本質はその神をひたすら賛美することなど、へえと思うような記述がいくらでも出てくる。アッラーという光源によって、こちらが(言葉本来の意味でも)「啓蒙」、つまりenlightmentされたというところか。
あと一冊は、今度はぐっと若い世代で(といってもこちらよりは無論年上)、気鋭の研究者が書いたもの。仲正昌樹『カール・シュミット入門講義』(作品社)。仲正氏は邦訳されたシュミットの主著を順に取り上げて、ていねいに解説を施していく。訳者の解釈の間違いははっきり指摘し、生硬な部分は新しい訳文を提示してくれるので有り難い。学部生時代、みすず書房版の熱に浮かされたような訳文に難渋しながら、それでも『政治的ロマン主義』を面白く読んだことを思い出す。こちらのアタマの働きが鈍いからと思っていたが、あれはやっぱりおかしな日本語だったのだ。
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