懐石ごっこ

 十連休ながら、旅には出ず。それどころか、外に食事しにいくこともほとんど無し。敬士郎さんと五軒はしご酒したくらい。いつも遊んでくれてありがとう、敬士郎さん!

 その代わり、市場やデパートにはよく行った。毎日旨そうな食材を買って帰り、好きなように料理して食べる。不思議なもので明日も明後日もしあさっても休みだと思うとかえって夜更かしする気にもなれず、おかげで朝は気持ちよく目覚め、掃除洗濯を済ませると浮き浮きと買い物に出かける、というサイクルを繰り返して、連日鴨だの河豚だの買っていたら、結局旅に出るのとそう変わらない出費となっておった。

 最後は懐石「ごっこ」。大阪に出た折、会津の塗り物の展示を見た。塗りの風合いはまあまあ気に入ったというところ。しかし五椀が組みものになっていて、そのまま「一汁三菜(+1)」の膳立てとなる所が面白くて買ってしまう。この形を活かすには懐石しか無いだろうという訳で・・・というより、懐石を作ってみたかったから買ったのだろう。ともあれ、この日も市場やデパ地下をうろうろ物色したあげく、決まった献立は以下の如し。

○飯・汁・香の物・・・飯は熟ましていない、いわゆる「べちゃ飯」を杓子でひとすくい、一文字型に盛る。汁は胡麻豆腐・ひじき・蕪菜の白味噌仕立て。とき辛子を胡麻豆腐の上にぽとり。本来はここに向付が載るところ。これは酒肴においといて、代わりに昨年付漬けた沢庵。ふだんは飯なんぞ食わないが、「ごっこ」は真面目にせねば面白くない。これを食べ終わると、一旦器を洗って、もう一度。
○椀盛・・・汁が白味噌だったので、こちらは清汁。実には鴨の抱き身を大へぎにしたもの・椎茸(干し椎茸をもどして使う)・蕪(聖護院かぶらの間引菜だから、ごく小さい)・芹(ゆがいておく)・京人参(これもゆがいて)・滑子、吸い口にへぎ柚子。
○向付・・・紅葉鯛昆布〆加減酢(かぼすと、淡口・濃口醤油を合わせる)・蒸し鮑共酢(肝を擂って、山葵醤油と混ぜる)、あしらいには坂本菊(ゆがいてさらした後、三杯酢に浸けてしぼる。こちらの加減酢は米酢・煮切り酒・淡口)。
○煮物・・・焼き穴子・海老芋・牛蒡・京人参。仕上げに柚子を擂ってちらす。
○焼き物・・・真魚鰹幽庵焼(酒・味醂・濃口に酢橘をしぼり入れる)
○八寸・・・というには少々手がこみすぎているが、「海」には柚釜仕立(生雲丹と滑子)、「山」として白和え(干し柿・菊菜・椎の実・木耳)。

 懐石盆(これも買うた)に椀盛以下を盛り付けた方が無論見栄えはするのだが、やはりいつもしているように、ひと品出して酒を呑み、酒が尽きかけたら次の品に取りかかるというやり方が旨く食える。熱いものは熱いうちに、冷たいものは少しでも冷たいうちに、というのが一等大事なんだと実感した。ま、そう言いながらもご機嫌に剣菱の瑞祥を五合やっていたのです。

 読書のはかがいったことは言うまでもない。逆に勤め人の身でしかも本好き、という状況でさいわいに生活から書を廃せずやってこれたものだと思う。外で呑んでなけりゃもっと読めてたんだろうなあ。しかしそれだと早死にしていただろうなあ、と我が人生を振り返る。

 さて休みのあいだに読んだ本。

○チャイナ・ミエヴィル『オクトーバー 物語ロシア革命』(松本剛史訳、筑摩書房)・・・『都市と都市』『クラーケン』を書いた、あのミエヴィルです。SFに非ず。大学院ではマルクス主義の立場から国際法を考察した論文を書いたほどの左派である由。序文で中立であろうとはしていない、と公言するとおり叙述の調子にボルシェヴィキ贔屓は紛れもない。当方は別段保守反動という人間ではありませんが、ケレンスキーが気の毒で仕方なかった。ミエヴィルの冷淡な扱いというより、どう動いても右から左からクサされる損な役回りになってしまったことをいうのである。書名のとおり、十月革命「まで」の本なのだが、巻末の人名リストで「スターリン統治下で処刑」が延々続くのには参った。それにしても、レーニンて無茶苦茶な人間やな。
○桑野隆監修・若林悠著『風刺画とアネクドートが描いたロシア革命』(現代書館)・・・アネクドートとはロシア革命ソ連時代に作られた政治ジョークのこと。ボルヘスは「ボードレールは検閲があったからいいものを書けた」と言った。暗鬱苛烈な体制がジョークを産むということか。プーチンやトランプでアネクドートは作れても、安倍首相では作れそうもない。幸か不幸か。ま、それはさておきこの本、読みどころは風刺画・アネクドートではなく、著者による十月革命「それから」の語りである。言うまでもなくそれはスターリンの権力闘争と独裁・粛清時代。「文字通りに全世界を敵に回して戦った」トロツキーの肖像がよい。これもまたレーニン並みにケッタイなやつではあった。光文社の新訳文庫からもリードの『世界を揺るがした十日間』出るらしいから次に読んでみよう。
○オットー・D・トリシャス『トーキョー・レコード 軍国日本特派員日記』上下(鈴木廣之・洲之内啓子訳、中公文庫)
○勝又基『親孝行の江戸文化』(笠間書院
○クレイグ・クルナス『図像だらけの中国 明代のヴィジュアル・カルチャー』(国書刊行会
○ジョルジュ・ルフェーヴル『1789年 フランス革命序説』(高橋幸八郎他訳、岩波文庫
○ヤン・コット『シェイクスピアカーニヴァル』(高山宏訳、ちくま学芸文庫
松木武彦『人はなぜ戦うのか』(中公文庫)
デイヴィッド・ロッジ『起きようとしない男 その他の短篇』(高儀進訳、白水社
○渡辺憲司『江戸遊里の記憶 苦界残影考』(ゆまに書房
ダニエル・デフォー『ペストの記憶』(「英国十八世紀文学叢書」、武田将明訳、研究社出版)・・・フィクションでは今回の白眉。中公文庫版(『ペスト』、平井正穂訳)は格調高い名訳だと思うが、詳密を極める新訳で読むと、疫病の猛威が一段とすさまじく迫ってくる。デフォーの平明な、ジャーナリスティックな文体でないとこの迫力は出ないんだろうな。
○植村和秀『折口信夫 日本の保守主義者』(中公新書)・・・何を言いたいんだか(「折口は保守主義者だった」ということなんだろうか)なんだかよくわからん本だったが、巻末の新編折口全集はこの順番で読め!というチャートが役に立つ。
○高正晴子『朝鮮通信使をもてなした料理 饗応と食文化の交流』(明石書店
ボルヘス『語るボルヘス』(木村榮一訳、岩波文庫
○井上亮『天皇の戦争宝庫 知られざる皇居の靖国「御府」』(ちくま新書
○西川祐子『古都の占領 生活史からみる京都1945-1952』(平凡社)・・・この本もよい。
○櫻井正一郎『京都学派酔故伝』(学術選書、京都大学学術出版会)
苅部直『日本思想史への道案内』(NTT出版)
小玉武『美酒と黄昏』(幻戯書房
川本三郎・樋口進(写真)『小説家たちの休日 昭和文壇実録』(文藝春秋

 


 今回もディケンズは読めなかった。

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