細腕繁盛記

 十二時回ってるから無理かな、でも中にいるなら大声張り上げて強引に入り込んじゃおうっと。

 と決意を固めて『いたぎ家』を覗いてみると、案の定ドアスクリーンは下りていたものの、そのすぐ前にオトさんがぬん。と突っ立っているのが垣間見えた。ガラスの隙間からヘンな顔をしてアピールしていたらアニさんが気づいて開けてくれた。ラッキー。

 もひとつラッキーだったのはひのさんがバイトの女の子と一緒に来ていたこと。少々酔いが回っているけれど、この顔ぶれでは呑まざるべからず、と酒を(もちろん日本酒を、です)頼む。

 いや、まことに愉快な夜でありました。店の看板すぎて粘るのは迷惑だろうけど、気の置けない人たちとしかももうお客の来ないと分かってるなかでわあわあいいながら呑むのはなんとも応えられない。

 この日のメインイヴェントは、Tuggy’s=Sことアニさんもひのさんも書いていたお二人の腕相撲対決。アニは「ゴジラVSキングギドラ」と形容していたが、まさしくその通り。なりもごっつく、声も(態度も)でかい二人がリキ入れてつかみ合うのですから、ま、なんというか、人間離れしてるというか、もといまるで歌舞伎の荒事の一場面を見てるようで楽しかった(こちらは見物するのみなので至極お気楽なもの)。

 ふと芝居を連想したのは、普段お店でも日本酒イヴェントでも忙しくてゆっくり話をする機会の無いひのギドラさんとしゃべることが出来た、その時の印象にもよる。「このヒト、口跡いーなー」と感心したのだ。あけすけで相当にキツいワルクチをこれだけ口にして、それでも聞き手を不快にさせないのは、むろん締めるところは締める気遣いの敏活さにもよるのだけれど、それ以上に明晰な語り口によるところ少なしとしない。

 こちらも藝を磨かねば・・・と誓って『いたぎ家』を出たまではいいが、続く行状がどうもよろしくない。おそらく怪獣二人(頭?)の対決を見た余波で、こちらの気まで大きくなっていたに違いない。翌日家を出る用事があったのに、朝まで呑み続けたことでありました。ブランデーをタンブラーでごくごくやっていたことから、よほど酔ってたのが分かる。この時ならこちらだって火焔の一つやふたつ吹いてみせたんだがね。

 さて翌朝。「用事」とは同僚芒男恵与の招待券で、大山崎美術館で開催中の『野口哲哉展 ―野口哲哉の武者分類図鑑』見物。それでも午前中には目を覚ましてふらふらしながらシャワーを浴び、家を出たのは我ながら大したものだと思う。

 しまりがないのはその後で、梅雨明けの凶暴な陽光に息絶え絶えになりながらバスで三宮に出て、さて切符を買おうと致しますれば、バッグのどこにも財布が無い(小銭入れはある)。やはり二日酔いでアタマが完全には回っていなかったということか。三宮の町中に住んでいる知人にカネを借りようにも、ほとんどは飲み屋関係なので、この時間に起きているはずもない。

 しかもなんたる呪いであろうか(という大仰なことば遣いを許されたい)、先ほどのバス賃で小銭入れも空っぽになってしまっている。

 ひとしお強烈になったように感じられる日差しで溶けそうになりながら、よたよたと三十分かけてウチまで辿りつく。こーゆー時することはもちろん決まっている。

(1)床にひざをついて、大声で「エリ・エリ・レマ・サパクタニ」と叫ぶ。

(2)むっくり起き上がって、スーパーで大量の缶ビール(&ハイボール&エダマメ&さきいか&チーズ&鰻蒲焼き&焼き鳥盛り合わせ&小鯛の笹漬け&じゃこ天)を買い込む。

(3)冷房をがんがんに効かせる。

(4)後輩(空男)に連絡して『ワンピース』七十冊をぜんぶ持ってきて貰う。

(5)(2)→(4)→(2)→(4)以下同じ。

 そう、わたくし今まで『ワンピース』読んだことなかったのです。どうせ短い人生、触れられずに終わるものも多かろう、と実はさほど気にしていなかったのですけど、黒猫のウィズで、『ワンピース』がらみの問題があまりにも解けないのに業を煮やしてこの挙に出た次第。

 で、二日を徹して読み上げたこの国民マンガ、設定とプロットが緻密でたいへん楽しめましたが、それより何より愉快だったのは、ルフィが死力をつくして化け物のような相手と闘う場面に来るたび、アニVSひのさんの対決がアタマをよぎって仕方なかったことのほうであった。

 この記事、アニ&ひのさんへのオマージュとして書き始めたつもりなんだけど、なんだか違うような。
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