Polarisation

 一雨降って急に春先、というよりは冬のような寒さ。野菜の高直には困るが、大喜び。寒さ好きなのである。日本の詩人では、《極北の詩人》吉田一穂が贔屓なのは、ひょっとして単なる生理的な嗜好を投影しているだけなのかもしれない、非文学的な読み方だなと自己反省する。

 職場の近くにある「スーパーヒロタ」をのぞいてみると、目板鰈が二匹で四百八十円。パックの中で鰈が身をうねらせている。今夜はこれでいきましょう。

 「ヒロタ」のすぐ側にあるこれもスーパーの「ジョイエール」では三つ葉の大束がなんと八十円。大喜び。《紅薔薇党》ならぬ《三つ葉党》を自認するくらいの三つ葉好き。芹も同じくらいに好き。赤貝と芹の胡麻酢和えは我が家自慢の一品である。

 鰈は、二匹でこの値段だから、せいぜい手のひら大。つくりは無理なので煮おろしにする。魚をからりと揚げたあと、折からの冷え込みなので、汁には片栗粉でとろみを少しつけた。薬味はさらしねぎ(同じホームページ内で「菜園日記」を書いてる山本さんの手作り)と生姜。

 三つ葉はおひたし。今日はかけ酢に村山醸造の「千鳥酢」をおごりました。寒波万歳。それと手製の鯛の真子の塩辛、鯣烏賊塩辛、鰯のわたの塩辛(と挙げていくと、えらく塩分をとっているようだが、どれもみな一箸程度である)でじんみりと呑む。もう一度寒さに乾杯。

 トマトが高いのキャベツが暴騰だのと騒いでいるが、どうだか。トマトなんぞ夏にいくらでも食える、キャベツがなくて困るってトンカツ屋じゃあるまいし。明日は朝から三つ葉で掻き揚げするぞお。

 合いの手(扱いするのも失礼な話だが)に本を読む。どうみても行儀が悪いけれど、テレビを見ないので、何にもせずに酒を呑んでいるとどうしても過ごしてしまうのだ(以上いいわけ)。清水徹ヴァレリー』(岩波新書)、渡辺浩『日本政治思想史 十七〜十九世紀』(東大出版会)、『ルナ+ルナ 山本容子の美術紀行』(講談社)。清水氏の本でやはりヴァレリーはスケベなオッサンだと再確認した。これは讃辞である。でなきゃあんな典雅にして濃厚な詩がかけるわけがない。渡辺氏は『近世日本社会と宋学』(そういえば最近復刊された)以来のファン。江戸の思想を、儀礼(それは風俗の一局面だろう)とのアマルガムとして見る視点にはいつも教えられる点が多い。いつかこんなヴィヴィッドな思想史をかいてやるぞ・・・酔いがまわってきたか。