般若党結成記

  なんだか幕末のテロ集団のように響くが、もちろん左様な殺伐とした集まりではなく、仏教語の「般若湯」のもじり、すなわち酒(日本酒というのは癪なので)愛好家の結社である。

  ブログ子はアルコールあまたある中で、酒をいちばん好んで呑む。だから、いまさら「結党」でもないのだが、ご存じの通り、酒の消費量は年々減少、作り手のほうでもまた、廃業する蔵元は数知れず。まずは自分よりも若い世代に酒に親しんでもらう機会を増やそうと、かかる集まりを考えた。

  最初の標的は、いつもご登場ねがっている大学の後輩・空男氏。実はすでに「洗礼」を終えている、とはすなわちもう味をしめている。六甲道駅北側の地酒立ち飲み「刀屋」さんで、「克正」を呑んで《開眼》したとのこと。ご同慶の至り。まずは空男氏を手先に徐々に「細胞」を増やしていくつもりである。

  般若党第一回会場は拙宅。

  いつもの水汲みのついでに、灘の酒心館に立ち寄り、アテをもとめる。熊本県八代の豆腐味噌漬け、汲みだし豆腐、あご野焼きなど。酒は「生酛純米 秋晴れ」。これ以外に、全量山田錦という「超特撰 純米酒」も試飲させてもらったが、濃醇にしてしかも芳烈。含み香はもちろん、飲み下したあとに立ち上る残り香がすばらしい。品格そなわり澄み切ったところ、あたかもバッハの無伴奏パルティータを聴くが如し。

  ついで立ち寄ったのはこれも神戸の酒飲みにはつとに名高いであろう六甲は高徳町の酒屋「こあみなか」。ここはワインでも焼酎でも、きちんと説明した上で懇切に相談に乗ってくれる、珍重すべき酒屋である。この日は店主の娘さんにあたると思われるなかなかに魅力的なおねえさんが、色々試飲させてくれ、その酒一々に簡潔・鋭利なコメントを添えてくれた。鋭利というのはたとえば「東京は結局ブームがすべてですから」などの評言をいう。それ以上の批判や、なまじいな東西文化比較論にわたらないのが好ましい。

  それはさておき、ここでは秋田「新政」の純米をもとめる。実をいうと、最初に試飲した酒のほうが好みにはあっていたのだが(味の優劣を言うに非ず)、ここの蔵の杜氏さんが、三十そこそこの方と聞いて買ったのだ。般若党から遠く秋田の同志にむけてのささやかなエールのつもりである。

  他にこちらで用意したのは、柿なます、鶏鍋、鯛真子塩辛柚和え、ぶりかま塩焼き等。後輩は平成二十一年度醸造の「菊姫大吟醸」、および錫のぐい呑み・銚子を持参。結党第一回にしては過ぎた贅沢・・・いやいや口開けにふさわしい景気づけと考えましょう。

  酒心館の「福壽」がヴァイオリン独奏ならば、「菊姫大吟醸」は弦楽四重奏、時には交響楽にさえ連想は及ぶ。むろんこれは性格の違いである。

  カクテ般若党結党セリ。純一ニシテ熱烈ナル酒ノ使徒ノ、参集シ給ハンコトヲ願フ。