八日の笹

 半年ぶりに映画館に足を運ぶ。映画好きの同僚が薦めてくれたのは『ホテル・ブダペスト』。肩が凝るような作ではないということなので、上映の一時間前に三宮に出て、『いたぎ家』で軽くひっかけることにした。

 シネ・リーブルで映画を見る、と言うと、映画館が入る朝日ビルディングのエントランスにスペインから運び込んだ樹齢五百年のオリーヴが展示されている、と教えてくれた。

 行ってみると、なるほど御年五百年だけあって、じつに威風堂々たる樹容。ことに根っこの部分が文字通り盤根錯節の体をなしていて、まるで「迷宮としての世界」の現前そのもの。ロカンタンが見たら卒倒しそうな迫力である。草食系男子ならぬ“樹木系”男子、いやさ“樹木系”オヤジも霊気(これをオーラと言わずしてどうする)に撃たれて思わず一礼してしまったほどでありました。いい巡り合わせだったとよろこぶ一方で、これだけの大物が、あられもない姿でコンクリートのピロティに晒されている無慚さもまた感じずにはいられない。人類を代表して非礼をわびたい気持ちにさせる光景でもあった。

 映画は一〇〇分きっかり。同僚もこちらもだらだら長いフィルムが大嫌いなので、テンポ良い話の進め方を充分に愉しむ。題名どおりホテルを主な舞台とする物語なのだが、要所要所で出てくるコンシェルジュ達(主人公と裏のネットワークでつながっている)の相貌がいかにもそれらしい。

 映画館を出る際、もう一度老いたる王様に敬礼。涼しいとまではいかないけれど、心地よい風が吹いている。おとなしく帰るつもりだったが、急に『ひの』さんところに行きたくなって覗いてみた。平日の遅い時間ながら、相変わらずの繁盛ぶり。隅っこの一席に陣取って、うざくと白焼きを堪能。土用丑の日に鰻を買いに行くのもなんだか気ぶっせいで、食べていなかった分をここで取り戻した感じ。そういえば、昨晩の元町夜市から一日遅れてひとり浴衣でぶらぶらしてるしなあ(こいつ日を勘違いしてるんちゃうか、といわんばかりの視線が痛い)。旅行だって、祭りが済んだ後の町にゆくのが好きだし。何をするにも「遅れてきた」世代なのである。

 それはさておき、この日はひのさんがずいぶん遅くまで遊んでくれた。「ひの日記」でちょくちょく出てくる、「お客さんの横に座ってゆっくり呑んだ」というやつである。ひのさんが落語好きと知って嬉しかった。

 店を出ると、やっぱり風はそよそよと吹いていて、溜め込んでいた鬱屈も綺麗に霽れあがっている。
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