膝を抱えて

 久々の国内の旅だったせいか、岡山から戻ってきてもまだなんだか体がフワフワして落ち着かない。その上に『いたぎ家』では、これまた二泊三日の沖縄から帰ってきたばかりのアニー(弟タクと、お客さんの計三人。話を聞くだに身の毛もよだつような、凄絶な食べっぷりだったよう)にオキナワ話を聞かされて、なおさら旅情がかき立てられる。

 最近読んだ本。

新井潤美『階級にとりつかれたひとびと 英国ミドル・クラスの生活と意見』(中公新書)・・・いやあ面白いなあ、と思いながら読み進め、三分の二くらいまでいった所でこれは一度読んだ本だと気がつく。酔いか?加齢か?
丸谷才一『持ち重りする薔薇の花』(新潮社)・・・この小説で、元々は「警察沙汰になる」ような性描写をするつもりだったそうだ。むろんそこまで過激にはなってないが、『女ざかり』や『輝く日の宮』よりこちらの好みには合う。
◎ポール・ベニシュー『偉大な世紀のモラル フランス古典主義文学における英雄的世界像とその解体』(叢書ウニベルシタシス)・・・浩瀚な「ロマン主義の世紀」3部作(まだ翻訳は一冊だけしか出てないはず)のいわば前史。こちらはコルネイユにもラシーヌにもちっとも親しんでいないというのがお笑いぐさである。
◎アルマン・ニヴェル『啓蒙主義の美学 ミメーシスからポイエーシスへ』(晃洋書房)・・・講談社学術文庫で出たバウムガルテン『美学』の参考書として。
田口卓臣『怪物的思考 近代思想の転覆者ディドロ』(講談社選書メチエ)・・・著者は、かの《怪物的》脱線小説『運命論者ジャックとその主人』の訳者の一人。その小説そのままに、自らの言説が自らの論理(視点といってもよい)を常に裏切り続けるという特異な思考の形態、というより生態を丁寧に跡づける。上質の啓蒙書。もっぱら『ジャック』と『ラモーの甥』でしか知らなかったけど、ディドロ、面白いヤツやなあ。
◎志野好伸編『聖と狂 聖人・真人・狂者』(シリーズキーワードで読む中国古典3、法政大学出版局)・・・中国思想史の裡に、いわば有機的な要素として「狂」が組み込まれていることが分かった。日本の儒学では如何に。「問い続ける者」「否定し続ける者」(これは悪魔のこと)としての老荘思想が決定的に脆弱だったのではないか?などとモーソーがふくらむ。このシリーズ、どれも面白いですよ。原文に続いてすぐ現代語訳が並ぶというフォーマットも読みやすい。
嵐山光三郎『漂流怪人きだみのる』(小学館)・・・これほど「怪人」の称が似つかわしい日本人はめったとあるものではない。『気違ひ部落周游紀行』の、気の遠くなるような明晰さと強靱さはかくもエゲツナイ人間でないと得られるものではない。嵐山さんの、今や円熟とも言える一流の文章だから気持ちよく読めたようなものである。きだみのるの娘を引き取った三好京三の浅間しい騒動は、事実としては知っていたが、嵐山さんはそれを内側の視点から描き出す。その時も冷静な筆致を失わないところが好もしい。脱線しますが、『気違ひ部落』を含む、往年の冨山房百科文庫、じつに名著が目白押しという観がありましたなあ。『清唱千首』とか『1946・文学的考察』とか『退屈読本』とか『完本茶話』(完本てえのがすごい)とか『象徴主義の文学運動』とか『名士小伝』(我が酷愛の一冊)。題名列挙してるだけで興奮してくるなあ。『夷斎筆談』が友人に貸したまま戻って来ないことは今でも心の傷として残っている(大げさな)。
山本博文『大江戸御家相続 家を続けることはなぜ難しいか』(朝日新書
◎ジョン・マッケイド『おいしさの人類史 人類初のひと噛みから「うまみ革命」まで』(河出書房新社
石鍋真澄編訳『カラヴァッジョ伝記集』(平凡社ライブラリー
◎高橋敏『大坂落城異聞 正史と稗史の狭間から』(岩波書店

長谷部浩『天才と名人 中村勘三郎坂東三津五郎』(文春新書)・・・著者は演劇評論家。二人の芸質の違いを、素人にきれいに描き分けてくれるのかと期待したが、自分の思い出話に終始した本だった。
◎室井光広『柳田國男の話』(東海大学出版部)・・・著者は小説家。らしいのだが、どのページ、どのセンテンスを切っても、一滴も血の流れない本だった。文学者ではなくジャーナリスト(商売人)の書く文章。
◎清眞人『嫉みの神と憐れみの神』『聖書批判史考 ニーチェフロイトユング、オットー西田幾多郎』(聖書論1・2、藤原書店)・・・じつに魅力的な章題が並んでいたので惹かれたのだけれど、あまりに悪文なので、挫折。

 取り上げる以上、なるべくワルクチは言わないようにしている、というより取り上げる値うちのある本以外は取り上げないようにしているが、当方でない人が読んだらどう感じるかは分からないとも思って、あえてこの三冊の名前もあげました。

 おや、今回も小説がひとつしか入らなかった。『ジャック』を読み返すといたしましょうか。
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