水源を尋ねて桃源郷に至る

 いつものように長峰霊園下へ湧き水を汲みに行くと、水が涸れていた。枯渇の危機は何度かあったけど(「逃げ水の記」ご参照ください)、なんとか保ってきたのに・・・。


 といつものように早手回しに暗澹とするこちらを余所目に運転手兼ボディガード兼レンジャーの空男が冷静にパイプの元を辿って、砂防堰の上まで続いていることを発見。よっこらしょとフェンスをくぐって探してみるに、あっけなく「事故」の箇所が判明した。パイプの継ぎ目が外れて、地面にじゃあじゃあ漏れていたのだった。継ぎ直すと水はすぐに出るようになった。無事に汲めて良かったとはいえ、元は三本あった湧き口も今や一本。しかも十年前に比べて明らかに迸る勢いが落ちている。


 帰りの車で、何となく「オレの年金どうなるのかなあ」とか「さりとて墓に布団は着せられず」とか思ってしまったことであった。


 ただしこの日はまっすぐには帰宅せず。折角足があるのだから、と東遊園地「EAT LOCAL KOBE」から東山市場へ回ってもらった。桃の節句料理用の食材を仕込むため。そういう具体的な目論見でもなければELKのような、意識高い系お洒落カフェ男子系(なんだかよく分からん)のイベントに行くことはないのである。「もっとも儂たちも、カフェ系ではないが水系男子ではある」と、二人で苦笑する。ここではトマトとパクチーと玉子を買った。ワインも呑んだがさしたるものではなし。無農薬有機栽培は、ま、いいとして、天然酵母発酵だかなんだかと謳っていたのはどういう意味だろうか。でないワインつーのがあるのか。


 たまたま催し物の横では日教組系(歌声喫茶系とでも言いますか)の団体が集会をやっていた。人数の割にシュプレヒコールの一つもなく、大人しすぎるのがかえってブキミである。右翼の連中を刺戟するのを怖れていたのか。それにしても、あんな気概の無い、志ん生の言い回しを借りれば「無くっても無くっても構わない」ような左翼いじめを嬉々としてやっている(淫している、とさえ言いたくなる)人たちもまあよく閑がありますな。平和なことよ。


 床屋政談はつまらんですな。買い物の話に戻りましょう。東山では蛤・針魚・笹鰈・縮緬雑魚・菜の花・柚子、それに桃の小枝。で、一日遅れの「雛御膳」としてこしらえたのは・・・


ばら寿司・・・縮緬雑魚、独活のきんぴら、高野豆腐は飯に混ぜ、菜の花を湯がいて刻んだもの、菜種玉子、独活の梅酢漬を上に乗せる。
○蛤汁・・・いつもは潮仕立だが、今回は鰹出汁を三分の一ほど加えた。従って塩に加えて淡口醤油も滴々と。椀妻は菜の花とめかぶとろろ、吸い口は柚子。
○漬け物・・・ひと月前に漬けた沢庵樽をこの日開封。ほとんど水が上がっていない。こういう場合どうしたらいいんですかね。焼酎でも入れてみるべきか。香りと歯ごたえはまずまずだったけど。あとは芥子菜の醤油漬けと茗荷の塩漬け、胡瓜のぬか漬け。全部自家製。一体に、漬け物となると無闇に張り切る質である。

 節句料理としてはこれで必要かつ充分なのですが(たとえば船場の代表的な旧家水落家の「行事帳」など)、鯨馬もやっぱり現代人だけに、さすがに汁と漬け物では愛想がないな、という気分。で、足したのが、

○笹鰈・・・一夜干ししたのに、白酒(単なる濁り酒ですが)を塗って焼く。これは京都の旧家杉本家の年中行事食としてあったような。
○針魚造り・・・素人ではあの細っこい魚の皮を引き、黒い腹膜(少しでも残すと腥くなる)を綺麗に取るのは難しい。で、三枚におろすまでは魚屋でしてもらう。家では昆布締め(普通の昆布では味がきつくなり過ぎるので白板昆布を使う)し、甘酢にさっとくぐらせる。食べしなに柚子をおろしかける。もう柚子も名残だからふんだんに用いる。山葵醤油で。
○紅苔菜の胡麻和え・・・中国野菜なんかな?スーパーで臙脂いろが目にとまって買った。ところが湯がいてみるとあに図らんや、蕨みたいな灰黒に変わってしまう。なんか赤の彩りを添えねば、と思ってトマトを買ったわけ。賽の目に切ったトマトと鳥の酒蒸しを混ぜて胡麻味噌で和える。胡麻を擂りたおしたところに赤味噌・煮切り味醂・粉山椒で味付け。

 酒は『宗玄』を上燗で。一日遅れとはいえ桃の祝いやからな、と久々に陶淵明の『桃花源記』を広げつつ(行儀が悪い)、ちまちまと肴をつついて、風雅きどりで早い晩酌を愉しんでいたのですけれども、その後張龍と焼肉に行ったのは何故だったんだろう。ユートピアから俗世に戻るための儀式みたいなもんか。


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