他流試合

  蒸し暑い。
  芸のない書き出しだが仕方ない。こんな日は焼き鳥食って元気を出すに限る。寒くって乾燥していても焼き鳥なのだが。
  仕事のあと、東淀川の「圓」に出張。この日は鴨がとくに旨かった。酒は「辨天娘」の槽(ふな)汲み・荒ばしり。玉色に薄く濁っているが、どうしてどうして腰のつよい酒で、いわゆる「にごり酒」とはまったく違う。三杯ほどきゅーっと引っかけたあと韋駄天ばしりしたくなるような味だなあ、などと店主に話しつつ呑んでるうちにいつのまにか終電が出てしまう。いや、いささかそれを狙ってた気味合いもある。ならかえってゆっくり出来るってもんだと腰をすえて呑み、おあとは一緒に呑んでた同僚(「圓」を紹介してくれた)の家に泊めていただく。
  さて、なにが「他流」か。翌日、同僚のマンションの近くにあるラーメン屋「塩元帥」に出かけたのである。もともとラーメンには興味が無く、「まあ、あってよし」というくらいの扱いで、有名店だろうが老舗だろうが、知ったことではないのだが、ここは店名のとおり、「塩」が名物とのことで、休日のことでもあり、ふらりと行ってみた。スープは澄んでいてギトギトしていない。和敬清寂の味わい、とは行かないが、蒸し蒸しする昼下がりでも抵抗なく喉をとおる。
  置いてあった「月刊食堂」なる雑誌を読んで、「名店にみる接客のコンセプトと流れの実際」をケンキューしつつ生ビールをごきゅごきゅやったのでした。宗旨替えするほどではないが。
  帰りは新大阪駅まで歩く。ここの本屋さんは良心的だな。地元神戸の大手でも置いていなかった、詩人多田智満子さん(もう新作が読めないと思うと無性に寂しい)の歌集『遊星の人』がさりげなく並んでいたりした。