読書ノオト

 坦々と、この10日ほどで読んだ本の感想をメモしていきます。最近こういうパターンが多いな。

 仕事→ジム・スイミング(体重=筋肉が増え方がじれったくなるほど遅いのですが、何を食べればよいものか)→料理→読書→睡眠の日々が続いており、過ごしている当人は充実しているのだが、中国人に殴られてみるとか、中国領事館に放火するとかでもしないと、ブログに載せる記事がないのである。


*ボフミル・フラバル『私は英国王に給仕した』=例の池澤夏樹個人編集の河出版世界文学全集の一冊。快調な語り。ある意味童話的な流れともいえるが、たとえば『悪童日記』のような神話性はない。この違いは何に由来するものだろうか。主人公の変転を支配するのは貨幣であるが、やはり俗の最たるものであるカネと神話の晴朗とは相性がよくないのか。ま、楽しめた一冊ではあります。

トマス・ピンチョン『競売ナンバー49の叫び』=まだまだやまぬわがピンチョン熱。個々のエピソードの充実度はやはり『V.』のほうが上かもしれない。『V.』でも本作でも小説の根本には謀略史観的発想があるのだが、そしてたいがいの謀略史観はちょっと付き合えば興味索然、というかバカバカしくなるものだが、ピンチョンにおいては然らず。むろん彼の大才のせいもある。ただこちらとしては岩波現代文庫に入ったのを気に読み直した名著、

*中村隆英『昭和史』

および、それと平行して読んでいた

保阪正康『仮説の昭和史 上下』

の読後感から、つまり昭和史における軍部・政党の組織同士、および組織内部における暗闘が歴史の重大な局面を、常に事態が悪くなるようにのみ展開させていく、という暗澹たる認識から見返すと、謀略史観というのもある一定のリアリティをもって見えてきたからである。当方にとってどうにも非現実的な存在に感じられて仕方がないのがアメリカという国なので、それも後押ししているのかもしれない。それにしても軍(とくに陸軍)官僚たち(エリート中のエリート)の、文字通りの机上の空論と狂信の逆説的(案外一体のものなのかもしれない)結びつきには唖然とするほか無い。残虐であろうと冷酷であろうと、それは一向に構わないけど、無能な指導者をいただくということは実に惨めなものである。

*フォード・マドックス・フォード『五番目の王妃』=『ウルフ・ホール』のトマス・ウルジーが出てくるので手に取ったが、『ウルフ・ホール』ほどのおもしろさは無かった。小説には読み時というものがあるので、時間をおいてもう一度読み返せば違った読後感を得られるのかもしれない。初めて読んだとき、オースティンなんてちっとも面白くなかったもんなあ。

トニー・ジャット『失われた二〇世紀 上下』=書評などの集成がおのずと革命と戦争の世紀をとらえ直す特異な史論となった。アーサー・ケストラーを扱った章や、アルチュセール(のコミュニズム)への批判などが興味深く読めた。なんというか、「馬力」とともに明晰さを失わない筆のはこびが好もしい。逝去が惜しまれるジャーナリスト。

*キース・トマス『生き甲斐の社会史 近世イギリス人の心性』=Religion and the decline of magicでファンになった歴史家。アナール派の《覇権》以来、心性史の領域もずいぶん開拓されてきたが、一九世紀のような比較的近い時代にめを向けた本はそう多くない。こちらが読んだのでは他にピーター・ゲイの『シュニッツラーの世紀』くらいか。よくいわれることだが、科学信仰と進歩史観に染め上げられたのと同じくらいオカルトへの暗い熱狂が世を覆ったのはイギリスのヴィクトリア時代で、わが明治もそれに近いところがある。灯台もと暗し。

中野重治斎藤茂吉ノオト』=今回いちばんの収穫。講談社文芸文庫に入った。以前たしか高速神戸駅地下のうす汚い古本屋で、一〇〇円均一で買った覚えがあるにもかかわらず、書棚を探しても見つからない。おそらく筆者中野重治斎藤茂吉という組み合わせがいかにも重厚鬱然たるものに映ってつい敬遠し、ついでに後輩のだれかにあげたもののようである。で、初読の感想。実に面白い。解説に「晦渋」「難解」という評語があったけれど、実に明晰で達意の論である。中野重治一流の、細かな推論・論証の過程をおろそかにしない、緻密な文のつらなりにいったん身を任せてしまえばこれほど読みやすいものもない、ように思える。本書とは直接関連しないが、しかし現代短歌というのにはも一つなじめません。最近俳諧に熱中しているからだろうか。まだしも現代俳句は愉しめる要素があるのだけれど(加藤楸邨の後期とか、永田耕衣とか、飯田龍太とか)。

※ランキングに参加しています。下記バナーのクリックをよろしくお願いします!
ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
にほんブログ村