年の瀬怒り日記

 一月に友人の結婚祝賀会をする。会場は拙宅なので、当然料理も出す。これが『いたぎ家』ブラザーズとかをお招きするんだったら完全にこちらの趣味でハードな献立を組めるんだけど(ぜんぶ発酵食品のコースとかね)、今回の会は若い女性も多いからそうもゆかぬ。色々料理の本を漁ってアタマをひねる。

○『イタリアの地方料理 北から南まで20州280品の料理』(柴田書店)・・・わたくしは柴田書店の本に埋もれて死にたい。
○山根大助『全力イタリアン  「ポンテベッキオ」が求める究極の味』(柴田書店)・・・山根さんの料理に埋もれて死にたい。
○岡田幸造『はち巻岡田の献立帖  江戸料理の百年』(世界文化社)・・・関西「風」懐石が席捲した今となっては、江戸料理の数々がじつにヴィヴィッドにうつる。
○野崎洋光・江崎新太郎・堀内誠『やさい割烹 日本料理の「野菜が8割」テクニック』(柴田書店
○川崎誠也ほか『ジビエ・バイブル 野鳥、熊、鹿、猪、ウサギ…素材の扱い方から料理まで』(ナツメ社)
○依田誠志『ジビエ教本 野生鳥獣の狩猟から精肉加工までの解説と調理技法|』(誠文堂新光社)・・・うーむやはり熊撃ちにゆくべいか。
○ガブリエーレ・ガリンベルティ『世界のおばあちゃん料理』(小梨直訳、河出書房新社
○谷部金次郎『天皇陛下料理番の和のレシピ』(幻冬舎

 結局献立は出来ず、自分の愉しみとして舌なめずりしながらページを繰っているだけとなった。さてどうなりますか。

 その他の本も。
青柳いづみこショパン・コンクール 最高峰の舞台を読み解く』(中公新書)・・・各コンテスタントの演奏を叙述する文章がすばらしく上手い。といっても鯨馬は楽器は何一つ出来ないし、ショパンにも興味はないのだが。
桐原健真『松陰の本棚 幕末志士たちの読書ネットワーク』(歴史文化ライブラリー、吉川弘文館)・・・もっとみっちり情報と考察が詰まった分厚い研究書で読みたかったぜぃ。
○田口章子編『日本を知る「芸能史」』(雄山閣出版)・・・DVD付けて欲しかったぜぃ。
藤井貞和『日本文法大系』(ちくま新書)・・・ホントに、新書一冊で「大系」しちゃってるのである。著者の「畸人」ぶりについては我が師匠野口武彦のウェブサイトで紹介されているが、通読すると、小林信彦氏の言い方に倣えば「目がテンになる」。
○平岡聡『「業」とは何か 行為と道徳の仏教思想史』(筑摩選書)
○石橋正孝・倉方健作『あらゆる文士は娼婦である 19世紀フランスの出版人と作家たち』(白水社)・・・面白く読んだのだが、達者すぎる文章が少しく耳障り。
○エリック・ワイナー『世界天才紀行 ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで』(関根光宏訳、早川書房)・・・同じ饒舌でもアメリカ人ジャーナリストだといかにもそれらしいのであまり気にならないから妙なものである。ウィーンを語るのにショースキー、蘇東坡で林語堂ではあまりに資料がカビ臭くはないですか(急いで付け加えると、林語堂『蘇東坡』は名著であり鍾愛の書である)、などと野暮なことを言わず、お風呂でぴゃーっと読んじゃうのに最適の一冊です(最近フロで読書する癖が付いた)。
○『病短編小説集』(平凡社ライブラリー)・・・「ゲイ」「クィア」「BL」などと続くシリーズ(?)のうちの一冊。たしか筒井康隆さんが編集した同趣旨のアンソロジーはもっとインパクトがあったはずだ。あれはどの文庫に入ってたのだろう。今更らしくソンタグなぞを持ち出すまでもなく、「病気」は形而上的にして存在論的ないいテーマだよなー。あ、日本私小説の「病人文学」みたいなゲテモノは別ですよ。
○ミシェル・ヴィノック『ミッテラン カトリック少年から社会主義大統領へ』(大嶋厚訳、吉田書店)
○中村隆文『カラスと亀と死刑囚 パラドックスから始める哲学』(ナカニシヤ出版)
中野好之・海保眞夫訳『スウィフト政治・宗教論集』(叢書ウニベルシタス、法政大学出版局)・・・「あの」スウィフトが真面目に道徳を語るとそれだけでブキミに響くという、この奇観。

 しかし何と言っても、

○沢井啓一他注『徂徠集 序類』(東洋文庫平凡社)・・・という企画が素晴らしい。儒者の真髄、主著よりもむしろ片々たる小篇にこそひそむのである。今までは頼山陽くらいにしか単著はなかったように思う(竹谷長二郎『頼山陽書画題跋評釈』、明治書院)。どんどん色んな儒者について出してほしい。


 食べたものでは・・・

○『海月食堂』の「渡り蟹の煮込みラーメン」・・・炭水化物(固形)がキライな人間を驚倒せしめた味。ホントは3〜4人前の品を無理くり一人前で作ってもらった。隅から隅までカニの内臓で、麺もカニミソにまみれている。もう、なんというか、食べてるうちに「こんなに旨味を詰め込んだらあかんやろ」と沸沸怒りが湧いてくるような味である。敬士郎シェフに「こーゆーのは良くないっ」とぷりぷり文句を言いながら完食。あまっさえ残ったスープで雑炊まで作ってもらってしまった。ふだん冷遇してる炭水化物(固形)に復讐されたような按配であった。敬士郎さんはニコニコしながらこちらの文句を聴いていた。
○『アードベックハイボールバー』の「ヤマシギのロースト」・・・「このジビエはもう、《高級焼き鳥》として出すよりテがないです」とは前田シェフの言。肉質は鶏の胸肉みたいで、かなりパサついているのだが、噛みしめると瞠目すべき旨味が溢れる。滅茶苦茶に濃いのである。浅蜊を大量に使って引いたフュメにトマトのエキス(甘味抜き)を加えたような味がする。ニクなのに面妖なことである。あるいは卑俗な喩えで恐縮だが、ポテチのコンソメ味をべろべろ舐めたらするであろうような味がする。これももちろんぷりぷりしながら、ばりばり骨までかみ砕いてしまう。オレが狐や羆だったらヤマシギばかりを追いかけるであろう、と思う。あ、あとキクイモのペースト(トリュフ入り)も素晴らしかった。前田さんは「あと一羽ありますが、注文がなければボクが食べちゃいます。もちろんお客様からご要望があればお出ししますが、無ければボクが食べます」と語っていた。心底注文が出て欲しくない、という口調であった。
○某洋食店の「鹿のオーソブッコ」。鹿でオーソブッコというのもヘンだが、ともあれ足をどん。と輪切りにしたやつを濃い血のソースで煮込んで出てくる。もちろん真髄は髄の部分にあるので、スプーンでほじくりだしてはせっせと口に運ぶ。言うまでも無いことだが、ぷりぷりしつつ平らげた。ここは初めてだったが、いきなり「お気に入り」登録(キノコのクリームスープも凄かったなあ)。店名は仔細あればしばらくは秘す。ヒントを言うと、「元町のパンダ食堂」であります。

 それにしてもぷりぷりし続けた一月であった。

 では皆様よいお年をお迎えください。

徂徠集 序類 1 (東洋文庫)

徂徠集 序類 1 (東洋文庫)

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