緑陰読書

 即位改元のめでたさはそれとして、なんだあの上皇后という称号は。「言うに事欠いて」という表現はあるけれど、皇太后なり大后なり由緒正しいことばがある以上、「事欠いて」ですらない。鰻丼や鮨食ってんじゃああるまいし、全く何たる呼びざまか。「(「皇太后」という呼称には)過去に権勢を振るったというマイナスイメージがあるから」などという言い訳をしてるようだが、それならば「上皇」はどーなる。代わりに「上天皇」とでもするのか。この言い方のいかにもいかがわしい響きからして、役人や政府関係者の思考が愚劣、少なくとも日本語、とはつまり日本文化の伝統に関しては鈍感極まるものであることが分かる。戦前でなくてよかったねえ、きっと蓑田胸喜あたりに狂気の如く噛みつかれてあげくテロの標的になってたところですよ。

 

 連休中もしずかに本を読む。合間に筍をゆがき、蕨をアク抜きして天日干し。無論その合間にも絶えず酒。思いがけない「プレゼント」もあったが、これは書かない。うっしっし。

 

○揖斐高『蕪村』(笠間書院)・・・「コレクション日本歌人選」の一冊。主題別の編輯となっている。揖斐先生ご自身が「詩」の分かる学者だけに、鑑賞文も過不足無し。

青柳いづみこドビュッシー最後の一年』(中央公論新社

大貫隆『終末論の系譜』(筑摩書房)・・・「新訳」「旧訳」に出る終末論の特徴的イメージを整理。イエスが宴会好き、といった、「おっ」という指摘も多い。

佐藤彰一『宣教のヨーロッパ』(中公新書)・・・直接関係ないけど、今の教皇、初のイエズス会出身者なんだってね。

○アルベルト・フックス『世紀末オーストリア 1867~1918』(青山孝徳訳、昭和堂)・・・社会思想よりの視点で、ショースキーのウィーン論の陰画になっている。

○松本栄文『日本料理と天皇』(エイ出版社)・・・なにが言いたい本なのか?

○園部平八『京料理人、四百四十の手間』(岩波書店)・・・「平八茶屋」主人の自伝。若狭ぐじコース、食べてみたいなあ。

池上良正『増補死者の救済史』(ちくま学芸文庫)・・・柳田國男梅原猛の「日本古層論」が批判されているのだが、著者の提出する図式とそれらとの違いがもひとつよく分からん。

レオ・ペルッツ『どこに転がっていくの、林檎ちゃん』(垂野創一郎訳、ちくま文庫)・・・汚された名誉のために復讐を誓う主人公の思い入れの強さがぴんとこないが、あとはさすがペルッツという話運び。フレミングが絶讃したそうです。

鹿島茂小林一三』(中央公論新社)・・・さすが鹿島茂、あまたある小林一三論とは違って、お得意の人口論を切り口に、ぐいぐい読ませる。先行著書への批判はことごとく当たっている。健全な思考というのがいかに強靱か。どんな人にもお勧めできる本です。

釈徹宗細川貂々『異教の隣人』(晶文社)・・・シク教ユダヤ教などの「異教」のコミュニティ探訪録。神戸の登場回数が群を抜いて多い。それだけ風通しのいい街なのだ、ここは。

○犬丸治『平成の藝談 歌舞伎の真髄にふれる』(岩波新書

ニール・ゲイマン『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』(金原瑞人訳、KADOKAWA)・・・墓場の住人(つまり死者)と近隣の街の住民(もちろん生者)とのパーティーのエピソードがいい。

井伏鱒二『七つの街道』(中公文庫)・・・全集は持っているけど、こういう形でまとめられた文庫本はやはり有り難い。所々で出てくる井伏調がたまらん。

○宮下規久朗『そのとき、西洋では』(小学館)・・・「そのとき」というのは「日本美術史がこのステージにあった、そのとき」ということである。カラヴァッジョ研究の第一人者による日本/西洋美術史の比較論。鎌倉彫刻と盛期ゴシックが同時代だったんだーなどと気づかされる。「考へるヒント」満載。当方個人としては、王朝文化の影響がかくもながく残ったことと、日本美術―というより日本文化一般―における「草書」的性格(アシメトリや破調の重視など)との関連、という宿題をもらった。

橋爪大三郎小林秀雄の悲哀』(講談社選書メチエ)・・・一応江戸時代のことを専攻してた人間から見ると、小林『本居宣長』の失敗は「勉強不足でしょ」の一言で済ませたくなるが、橋爪さんは丁寧に、あきれるほど丁寧に小林の本文をフォローしつつ、“敗因”を分析していく(川村二郎の文藝時評ははやくに指摘していたことであるが)。それにしても、みんななんでこんなに小林秀雄にこだわるんだろうな。

武田雅哉西遊記』(慶應義塾大学出版会)・・・猪八戒という窓から見た『西遊記』。武田雅哉さんにはどんどん『西遊記』周辺の「神怪小説」を翻訳紹介していただきたい。

 

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