我火星人なりせば~コロナに抗して孤独旅①~

 えんぶり以来、ということは半年も経っていないのだけど、合間の大騒動を考えると随分久々という感じがする。

 八戸駅からそのまま鮫駅まで乗り、バスで小舟渡まで。種差海岸で「いちばん海に近い食堂」として有名な『海席料理処 小舟渡』で昼食という心づもり。

 近いどころか、海の上に突き出したという造りで、失礼ながら漁師小屋に毛の生えたような建物がよくうつる。まさに目の前の岩に波がくだけるのを見ながら何はともあれビールをぐいっとやる快感は言うまでもない。今朝はあまり上がらなかったとのことで、お目当ての生海胆丼は注文できず。代わりに定食を頼んだのですが、これは定食というよりコースですな。まず出ましたものを書き連ねてみる。

 ・小鉢
 ・つくり・・・わらさ、帆立、鯣烏賊、岩牡蠣、生海胆、牡丹海老
 ・酢の物・・・海鞘酢
 ・焼き物・・・帆立、鯖塩
 ・椀・・・いちご煮

 わらさの造りなぞ、名詞大のものが四切れ。それでも鰤・間八系が苦手な人間があっさりと平らげたのだから、当然だけど、新鮮で旨い。ビールでは間に合わないので地酒の小瓶を頼み、光る海をほけーっと見やりながら魚をつまむ。あらためていちご煮(有名ですが念の為。海胆と鮑の潮汁です)は飯の相手ではなく酒のアテ向きだと思った。薄味の具合といい刻み込んだ大葉の香りといい酒客泣かせ。

 なんて言いながら酒をお代わりしたあと、鯖の塩焼き(堂々片身ぶん乗っかっている)で飯を二三口。「前沖」のサバがあるのに飯を食わないという手はない。

 すっかり腹がくちくなったので、午後は少し時間をかけて種差海岸を歩く。前回、初の八戸旅のときには海霧が上まで這い上るような天候で、震えながら暗い海を見たおぼえがある。うってかわって今日の眺めは豪快そのもの。滑らかな天然芝、または峻険な崖の先に白波がくずれる光景は、たしかに宇宙人でも感動するであろう、と実感。

 唐突に宇宙人が出てきましたが、ここを訪れた司馬遼太郎が「宇宙人が来たら、真っ先にこの海岸を見せてやりたい」と景色を評した由。さすがに国民作家だけあって、褒め方もむやみに景気があっていいですね。人っ子ひとりいない(ように思えるくらい、長い長い海岸なのです)のそこここで足を止めて潮音に聞き入っていると、珍しく感銘は句ではなく歌の形を取って出た。お笑い草にご披露。


 太平の海の揺り越す白波の岩噛むときにすさびては果つ


 市街に戻り、ホテル内の温泉で体をほどいてしばしうとうと。だいぶお腹も空いてきたかな。

 この日は八戸の知人であるmamoさん(2020年2月「鬼が笑う門」をご参照下さい)がコーディネートしてくださった。まずは待ち合わせの前に、ブックセンター横にお囃子の練習を聴きに行った。例にもれず八戸の夏祭り(本来は秋祭り)である三社大祭も中止となっている。不思議と、冬のえんぶりの囃子よりもゆったりしていてどこか哀調を帯びている。えんぶりの方は北国の冬をはね返すために、もしくは予祝の芸として力強い節回しとなったのかな。ともかくこども達が大人やにいちゃんねえちゃんに指導されながら太鼓叩いている眺めは、この町の贔屓として頼もしい光景である。

 さて待ち合わせ場所は長者まつりんぐ広場。ここにあるむやみに背の高い倉庫では三社大祭の山車三基の制作中。そしてmamoさんも鍛冶組のメンバーとしてそこに加わっている。祭での巡行自体は取りやめだが、展示用に作っているとのこと。

 Google先生にあれこれ訊ねていたから概念的には分かっていたが、やはりこの山車の大きさ、華麗さには圧倒された。そしてmamoさんの説明を聞いて、何から何まで(機械で動く仕掛けの工夫まで)町の方々の手弁当による作業で作られると聞いて一層圧倒される。

 うつくしい話。それだけに尚更今年の中止は悔しかっただろう。鯨馬も、復活第一回目のときには何とかして駆けつけたいものだと思う。

 八戸は横丁の町でもあります。とはいえ、みろく横丁の屋台村以外はやはり観光客には(鯨馬のような厚顔なヤツでも)なかなか入りづらい。なのでmamoさんが夕食に選んでくれたのが狸小路にある店だったのは嬉しかった。

 『origo』。ナチュラル系のワインで合わせるビストロだそうな。その意味でも自分では選ばない店である。ここでは我が輩の八戸師匠格であるmamoさんに色々教えてもらうおしゃべりがメインのような趣だった。といって料理がイケなかったどころではなく、前菜の豚レバーの低温燻製も、鴨のロースト、それにカイノミのローストも堪能したのですが、なにせこの店量が多いのですね。というか、普段ならさらっと平らげてもっとワインをぐびぐびやってるはずの鯨馬ですが、昼間に強烈な日光にさらされながら小一時間海岸を歩きづめに歩いた人間はここらで急速に眠くなってきた。

 日本酒バーも最近できたんですよ、面白い飲み屋もありますよとオスピタリテをいっさんに振りまいてくださるmamoさんには本当に申し訳ないが、八戸初日は初戦敗退。次は必ず朝まで呑みますから!(つづく)