大味小味

  雨の音を家で聴くのは落ち着くものだ。ジムで一汗かいてもどり、シャワーを浴びたら浴衣に着替えてさっそく一杯。午後から読みたい本がたまっているのでこれは酒ではなく玉露。氷出しのものをグラスに半分ほどのものをちびちびやる。そして例のBSの番組を見る。

  例のと言われたって何のことか分からないでしょうが、これはBBC制作の料理兼旅番組で、最近面白がって見ている。イギリス人のシェフが地中海のあちこちをめぐって土地土地の風土・食材・料理を紹介してゆくという作りである。

  コルシカだとかシチリアだとかの食材を知りたくて録画したのだが、そして実際色々と興味深い事実も知ったのだが、面白いのはこのシェフである。笑えるくらいに大味なのですね。顔も口調もコメントの内容も。いや、テレビの娯楽番組でまで英語のお勉強をするつもりはないので口調・話はむろんふきかえによっているけれど、察するところこのイギリス人シェフのおしゃべりの大味さに辟易した?それともぼく同様に笑った?それともある種の感銘を受けた?制作者がその味を活かすべく、このような日本語でしゃべらせているのかもしれない。

  だとすれば日本のディレクターのお手柄ということになるけれど、大味なのは翻訳だけではない。このシェフが、時折現地の素材を用いて料理する(見ている限りではどうもイギリスの自宅台所で作っているようである)場面が、まあ何というかNHK『今日の料理』的日本的繊細趣味的完璧主義ないし官僚主義なぞ薬にしたくともないほどに雑。はっきりいえば汚らしい。

  不潔というのとは少し違う。見ていて不愉快になるわけではないのだが、かといって猛然と食欲をかきたてられるほどでは決してない。ここでことわっておくと、ぼくはNHKをはじめとする日本の料理番組を見ていても、めったに食欲をおぼえることがない。なによりあの白っちゃけた、寒々しいライト。病院だか官庁だかの食堂でもそもそ飯をかきこんでるような気分になってかえって食欲は減退する。

  話をもどす。日本のマナリスムとはおよそ対極的にエエカゲンでおおざっぱな料理を見ていると、うーん、やはりアングロサクソンは違うなあとある種民族学的な感動にうたれてしまう。地中海人種とはやっぱり、ひと味違うんですね。衛生的に見たら南欧の調理環境の方がよっぽどひどいんだと思うが(番組で見る限りでは)、でもグレートブリテン的な大味な感触は画面からは伝わってこない。少なくともどちらかでご馳走してもらえるというなら、シチリアの僻村のほうを選ぶな、ぼくなら。

  と思うのは、夏を前にまたもやダレルの『アレキサンドリア四重奏』を読み返しはじめているからだろうか・・・などとひとしきり思いにふけっていると玉露は空。次は番組で紹介されていたミントティー(緑茶とミントと砂糖を煮立てて作る)を試してみよう、と決める。