年少の友人の誕生日祝いに神戸・大丸の天ぷら屋『与太呂』に行く。車海老と貝柱、それにずわい蟹がおいしかった。名物の鯛飯もまたよろし。飲み物の種類とサービスはもっと研究されたし。
前日までリンパ腺を腫らして寝込んでいたはずの友人が元気に飲み食いしてくれたので、こちらも嬉しくなり、バールに移動してチーズでワインを呑み、さらにバーに移動してもう少し呑む。
歓談していると、メイルあり。大学の後輩が無事出産したとのしらせ。お祝いに、子どもの名前を詠み込んだ和歌を作って送る。
朝日さす松ヶ枝につむたひらゆき広くも見ゆるけふの飛火野
ずっと奈良にお住まいなので「飛火野」を入れた。「たひらゆき」は春の淡雪のこと。新しく母となったひとも、淡雪が霞をまとって歩いているような雰囲気をもっていたが、このことば、『猿蓑』に
千代経べき物を様ざま子日して 芭蕉
鶯の音にたびら雪降る 凡兆
乗出してかひなに余る春の駒 去来
と出ていて、『平家』「殿下乗合」にある「雪ははだれに降つたりけり」という表現とあわせて、日本文学に降る雪としては双璧だなあ、と以前から思っていたので、このように自然な形で使えたのは嬉しいことである。
お祝いのつもりで、今晩は家に帰ってローストビーフを焼く。ブルゴーニュの赤ワインを抜いてひとり乾杯。対手には、えらく物騒な内容ながら『パリは燃えているか?』(早川書房)。ずいぶん前に出た本で、師匠の本の題名にもこれが変形して使われていたから気になっていたのだ。《戦争》というものの影響の深刻さ巨大さに今さらながら圧倒される。日々そこらでばたばたと人が死んでいく中でも、日常生活は続いていくしかないのだ。むろん、パリがワルシャワのように破壊されるかどうかというメインプロット(これはノンフィクションですが)にはらはらさせられることはいうまでもなし。
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