天守にひびく旋律は・・・

  鏡花は鍾愛の作家で、連休の時などに彼の長篇を寝そべって読むのは無上の快楽ともいえるくらいだが、今まで戯曲にはあまり馴染んでいなかった。これは読むのではなく観るほう。古い映画の『夜叉ケ池』(玉三郎加藤剛?)くらいか。だもので、先日テレビでやっていた『天守物語』は愉しんだ。

  天守夫人・冨姫は篠井英介。姫川図書之助は平岡祐太白井晃演出。篠井さんの声がよく響いて聞きよく(思うのだが、舞台ではなによりもまず台詞が明瞭にききとれることが大事ではないか)、ジュノンボーイのイケメン・平岡祐太くんもまた好演。しかしいちばん意外だったのは戯曲の台詞がよく分かったこと。

  というのは、鏡花の読者なら誰でも感じることだと思うが、あの屈曲多く、漢字の視覚的効果を最大限に利用した華麗にして纏綿たる文章は、正直いって一度読んだくらいでは意味が通らないのである。むろん小説の文体と戯曲の台詞とは一緒にはならないだろうけど、それにしても耳できくとすんなり頭に入ってくるのはなにか鏡花の魔術にかけられたような心持ちではある。

  篠田一士が、鏡花の文章はなによりもまず音楽的だ、と書いていたのを思い出す。

  今度は『山海評判記』を音読してみようかしらん。

  などと思案しつつ、ぬる燗をちびりちびり。肴は子持ち沙魚。スーパーでまだ活きているのをパックで(五尾三百円なり)売っていた。天ぷらもいいが、さばくのが面倒なので池波正太郎風に煮付ける。すなわち酒と醤油だけ(味醂も生姜も入れない)でさっと煮上げてしまう。それと蛤吸物。粟麩の田楽。

  『天守物語』が終わったあとは本を読みながらさらに呑む。対手は藤原成一(そう、あの『仏教ごっこ』のヒトです)『風流の思想』(法蔵館松岡正剛的な言い回しが多いのがやや気に障るが)、『ブルターニュ 死の伝承』(藤原書店。ほんとにこの出版社はよく頑張っている)、河村英和『イタリア旅行』(中公新書。いわゆる「グランド・ツアー」についての概説書。最終章の、イタリアに遊んで帰らなかった、つまりその地で死んだ人々を扱っているところが面白い)、『石毛直道 食の文化を語る』(ドメス出版。石毛先生、尊敬してます)など。


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