イルカたちの戦場

  いやあ、北島康介さん、やっぱりすごいですねえ。前々日でも日本記録を二人が更新するという快挙もあって、ここしばらく水泳の日本選手権に釘付けという感じである。

  スポーツを観戦するという趣味は自分からはいちばん遠いものと思っていたが、下手なりに習っていると、一流の選手の泳ぎがいかに力強くまたうつくしいものか、それくらいは分かるようになってくる。とくに自由形。流線型にすらりと伸びた身体がぐいぐい水をかきわけていく姿を見ていると、人間よりはイルカとかカジキマグロとかのほうに連想が向いてしまうほどである。

  スイミングのコーチにすごいですね、と話すと「一掻き、一蹴りあたりの伸びがちがいますね」と。なるほど。イルカなみに優美に見えるのはそのせいか。「始めたころに比べたらかなりフォームが綺麗になりましたよ」と、こちらにも花を持たせてくれる。馬の前の人参とは知りつつも、その後のレッスンに力が入る。スピードはともかく、見てうつくしい泳ぎにしたい。コーチ、これからもよろしく!

 というわけで、というわけでもないのだが、先週から今週は飲み歩きもせず、テレビを見ながら本を読むことが多かった。

 この一週間で読んだ本。

・土屋恵一郎『怪物ベンサム』(講談社学術文庫
 ※書評、というより紹介文書きました。
・ピーター・アクロイド『チャタトン偽書』(文藝春秋
 ※ともかく“贋物”の趣向が幾重にも折りたたまれた、それこそ次の本ではないが、マニエリスティックな小説。最後の最後で大仕掛けがあっと言わせる。日本ではこういう偽書作者はいない、と思うがどうだろうか。実は、以前戯れに『新古今』を中心に据えた偽書を作りかけたことがあった。この本に贋作欲を刺戟されたこともあって、久々に「鯨飲版新古今伝書」(むろん仮題)に筆を遊ばせてみようかと思ったが、ノートが見当たらず。書庫を整理する気力もないので、これはまた次の機会とする。
・八木敏雄『マニエリスムのアメリカ』(南雲堂)
 ※よく考えればアメリカ文学に古典(これはもっとも正統的な語義としての「古典」)はないのだ。古典の代わりに、始まりに位置するのがポオとホーソーン、これはマニエリスムとならざるをえないわけである。今思いついたのだが、ピンチョンの諸大作にしても、この路線で捉えることは可能なのではないか。続々新訳も出てることだし、これはぜひ考えて見なきゃ。
・鈴木泉他編『「知」の変貌・「信」の階梯』(講談社選書メチエ
 ※八木雄二『天使はなぜ堕落するか』以来、個人的に関心が高まっている。とくに「中世の言語哲学」が面白かった。それにしても、最近世間一般で、中世哲学復権の動きがあるのは、単なる学者のリヴィジョニズムだけでは片付けられない文脈があるのではないか。つまり、中世哲学に現代性を見いだした結果というより、現代世界が全体として大きく「新たなる中世」へと向かいつつある証拠ではないのか。誇大妄想的な感想だが、つとに蓮實重彦山内昌之両氏の対談でそういう趣旨の発言があったように思う。
・『死ぬまでに味わいたい1001食品』(産調出版)
 ※愉しんだ。果物や野菜はまだまだ知らないものが多いと実感。日本からは関アジや明石タコ、神戸牛などが選ばれている。
若島正『乱視読者のSF講義』(国書刊行会
 ※「講義」自体も面白かった(じつに正統的かつ犀利な読みである)が、自分がいかにSFから遠ざかっていたか、つまりここで紹介される作品の多くが未読であることを実感。面白そうな作品が色々挙げられていたので、こまめにメモを取る。

  この他には山川静夫歌右衛門疎開』(文藝春秋)、井上ひさし『おれたちと大砲』(文藝春秋)、ロバート・ダーントン『歴史の白昼夢』 (河出書房新社)など。洋書ではペニー・キャメロン・ルクーター、ジェイ・バーレサン『世界史を動かした17の化学物質』(原題Napoleon's Buttons : 17 Molecules That Changed History )。

 今回は(も)料理関係の記事はありません。あしからず。

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