青い森の紅い森~青森再々々訪(2)~

 翌朝は惚れ惚れするような宿酔。ホテルの朝飯も、炒り卵と味噌汁とコーヒーというアヴァンギャルドな組合せですませる。それどころではないのだが、なんか腹に入れとかないと途中でぶっ倒れるだろうから。

 

 ゾンビの如きカラダを引きずって、駅前のバス乗り場に向かうと、えーっ、三十分前だというのになんじゃこの行列は。

 

 係員に訊ねてみたら、「この時期は連日こんなもんです」とのお答え。紅葉時分の奥入瀬行きであってみれば、是非もなし。ただ新改商店で「今は大渋滞でなかなかクルマが動かんよ」と聞いていたのを思い合わせ、奥入瀬の渓流まで行くのは止めにした。満員のバスの中、渋滞につかまってしまったんでは、我が身の惨状でどうなろうやも知れぬ。

 

 ということで、八甲田山の紅葉を見に行くことにした(バスは同じ。途中で降りる)。蛙と閉所と高所がなによりコワイ人間が、なんだってまたロープウェーなんぞに乗ろうとしたのか。宿酔の効験あらたかと言うべし。

 

 一月に来た時は雪に埋もれていた八甲田のスキー場も、今は紅・黄・茶・紫・緑が一面に渾然と輝いている。酔眼瞠目。これは下からの眺めで、ロープウェーになると、眼下は無論のこと、前も後ろも左右も鮮やかな橅の紅葉一色である。霞のかかったアタマでも、この迫力に押されて、駄句二つ、すんなり出た。

 

 燦然と沈黙(しゞま)廣げよ橅もみぢ

 うつそみは紅葉の谷に捨て果てぬ 碧村

 

 山頂の駅では一時間ほど時間がある。登山靴でなくても回れる短かいコースがあるらしいので、歩き出した。この辺りからそろそろ宿酔も醒めてきたか。

 

 観光客の大方は、駅の展望台で満足しているらしく、また本格的な山登りの方はさっさと別のコースに行っちゃうわけで、ここでも鯨馬は独り、客観的にはとぼとぼと・・・しかし内心はこの状況を悦んでいたのですね。さすがにこの標高では橅は一本も見ず、ただエゾトドマツに笹ばかり、そこに急にガスが流れ込んで前後の路の先は白い闇。どこまでも文化に馴致されきったような上方の風土に暮らしていると、こういう非人間的な風景に出くわすことは滅多にない。薄手のセーターでは震え上がるような冷気も宿酔の身にはかえって心地よく、半時間あまり「八甲田山死の彷徨」を愉しんでおりました。

 

 ロープウェー駅に戻って、自販機を見るとおしるこだけ売り切れていたのが可笑しかった。みんな考えることは同じなんですな。

 

 町に戻り、残りのアルコール(アセトアルデヒド?)を吹っ飛ばすべく、古川の「まちなか温泉」へ。確か三回目である。駅から五分という距離で、しかも三百五十円也で本格的な温泉に入れるのだから、足が向かざるを得ない。

 

 この日、露天風呂には小ぶりの林檎がぷかぷか浮いていた。柚子とは違って格別香るわけではないが、なんとなく嬉しい。そっと観察していると、此方同様、ええ年したオッサンも人目を気にしい気にしい、林檎で遊んでいた。

 

 すっかり元気になったぞう。と一度伺った、これも古川の裏通りにある天ぷらやで昼食。周囲はサラリーマンが日替わり定食を掻き込む中、天ぷらで悠々とビールを呑む。凄く旨いというのではないが、海老は海老、鱚は鱚(うーん、鱚よりもっと魚の味が濃かったな)の味がするのがよろしい。次来たら、前の水槽に活けてあるすっぽんをつぶしてもらうべいか、いやその前に中々旨そうなあの日替わり定食を頼んでみなきゃ。と千々に思い乱れながらビールを呑み続ける。

 

 午後の陽を浴びながら、ぷらぷら歩く。見かけた古本屋に入ってみると、以前雪の中をたどり着いた「らせん堂」が移転していたのだった。天井高く入り口は明るく、神戸でも少ないいい雰囲気の古本屋。御主人に挨拶して数冊を買い求める。

 

 この後、夜店通りの小洒落たカフェでハーブティーなんぞを啜りながら古書の頁を繰る・・・のだったら絵になりますが、そこはまあ、このブログのことですから、夕景まで新改さんでハイボールをきゅっきゅきゅっきゅとやっておりました。

 

 呑み屋には集中的に通え!薬味はとことん使え!RPGの宝箱と素材は残らず拾え!というのが我が家の家訓であります。

 

 夜の食事以降は次回。

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