鳥獣大会

 一月はよう食べに出た。勤務先の事情で、連休が少ない月だったから、溜まったストレスを外食で発散する形となった。と言っても炭水化物に興味はないので、カツ丼大盛り!とか新規ラーメン店発見!なんてことにはならない。熱燗大盛り!とか新規漬け物開発!とかだったら食指が動くのですけれど。

 

 心に残った品々は、

 

○和え物二種(玄斎)……ひと品めは八寸のうち。青菜(嫁菜?芹?)を、荏胡麻を擂ったので和えている。香気が何よりの御馳走。ふた品めは河内鴨の皮のところを、牛蒡・人参・キャベツなどと、酢味噌で。童画のような彩りも愉しい。冷酒がすすみました。日本料理の店では、「椀さし」のような《花形》以外のこういう品にこそ料理人のセンス乃至エッセンスが顕れる、と鯨馬は思う。

○鴨のコンフィとハム(ロンロヌマン)……前田シェフのお店。『アードベックハイボールバー』『モゴット』と前ちゃんの料理を追いかけ、ついに草津にまでのしてしまいました(お慕い申し上げております)。もっとも神戸から新快速で一時間半。座ってればいいわけですから、草津はけして遠くない。さてハムは熟成を抑えてあでやかな香りと舌触り。コンフィあくまでも力強く、一緒に煮込まれた白インゲンも、変な形容ですが勇壮な味わいでよろしい。思い通りのキッチンで、思うような食材を用いてニコニコ料理しているシェフを見られるのがまた嬉しい。あ、ソムリエの奥様の選択もよろしかったな。セバスチャン・マニェンなる醸造家のアリゴテのブルゴーニュが気に入りました。

○葉にんにくのパスタ、人参のムース(AeB)……パスタはオレキエッテ。ソースに白味噌を使ってると中田シェフに聞いたような。それで菜の花などを和えているから茶料理のような瀟洒な口当たりで、そこに葉にんにくが小気味いいパンチをかませてくる。土佐ではこの野菜を擂ったものでハマチやカンパチを食べさせるが(旨い)、魚でなく野菜を和えても洒落た一鉢が出来るのでは、とひらめく。これから色々菜が出て来る時季なので、試してみるつもり。人参のムースはメインコースのあと、ドルチェの前に出された。甘味に移るまえの、言ってみたらインタルードに当たるひと品なのだけれど、これがまたすこぶる充実の味で、上に滴々とたらしたオリーヴ油の爽やかな香りと相俟って、ずっとこれで呑んでいたいと思わせる上等の出来でした。

ジビエのコース(TN)……こちらは初見参。全品ジビエで構成された限定二十食のコースと聞いては予約せずにいられない。「ジビエキターッ!」もしくは野田秀樹風に「野獣降臨ー!」というところ。猪のリエット(胡椒風味を効かせたサブレに挟んで)も、雉のテリーヌも(あんぽ柿を混ぜたマスタードで食べさせるという趣向)堪能した後で、御大登場という恰好でヒグマのロースト。人生初のヒグマを噛みしめるに、筋っぽくもなく、かといってとろける食感でもなく、ぎりぎりまで抵抗を示した後、しゃくっと崩れるような不思議な食感で、血の香りをさせながら喉をすべっていく感覚が妙になまめかしい。「二歳の牝なのでロースト」「年取った牡だと煮込みにでもしないと食べられない」と聞いて納得するくらい、柔媚な味わいなのである。それでもさすがは森の王者、いや女王か、だけあって脂のとこをしゃくしゃくやってますと、甘味の影から、むぉふぉっ。という感じで土と木の実と草の混じった香りが立ち上がる。やっぱキムンカムイ、すげぇわ、と品の無い表現で呟いておりますと、ヒグマの皿に次いで真鴨が来た。絶頂の上に重ねてメインが来る按配、さながらブルックナーマーラー交響曲の如し。抱き身のなめらかな味わいは普通に旨いとして、圧巻(書いていても段々興奮してくる)は腿やせせり身などを叩いたポルペッタ、つまり肉団子。芳烈にして濃醇。これに内臓をつぶして作ったサルミソースをつけて頬張ると堪えられません。なんだか自分がヒグマになって鴨に食らいついているようで、心中では何度か吠え声をあげておりました。肉に埋まった散弾を噛み当てると、その錯覚は一段と濃くなるのでした。

○肴・鮨(鮨三心)……ここも初見参。「お寒い中をいらしたので」と蛤の清汁(具なし)から始まる肴も良かったし、肝腎の鮨が旨かった。鰤なんて魚、鮨に合うわけがないと思い込んでたのに、千枚漬けで巻いて柚を振ると不思議や、見事に食べさせる品になってしまうんですね。他にもミソをふんだんに混ぜた捲き海老の握りなど、一体によく工夫がされているのが分かる。建物の風情もよし。予約の取りにくいのは当然でしょうね。

 

 さて二月は和風ジビエから始まります。久々の金沢旅は明日から。

 

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