『たむら』の御主人には岩木山へバスが出ているとも聞いていた。雪の岩木神社も魅力的だったけど、まあいっぺんに見尽くすことはないわな。また来ることは間違いないし。と考えて二日目は朝から市内の散策。
最初はやっぱりお城かな。せっかくだから観光客の少ない、早い時間に見物しよう。
しかしこれは前半は当たっていたが、後半に関しては見込み違いであった。客の少なかったのは確かだが(当方と、老夫婦のみ)、早かろうと昼時であろうと、ずっと客はいないのである。
それもそのはずで、当然のことながら一面の雪。可愛らしい天守が白一色に埋もれ、そこに朝日が射してきらきら輝く眺めは、なんというか実にめでたいものだったけど、なにせ歩くのが困難なほどの雪。以前連句独吟を試みたとき、名残の花の句に、
住み着けば堀あをあをと花の城
と詠んだが、「あをあを」どころかお濠も暗い水の色にことごとく凍てついているのだった。いや、雪や氷自体に閉口したのではありませんよ。むしろ雀躍する気分だったのだが、案内板に「道路」「池」と書いている、その境目の検討がまったくつかない。雀躍したまま池にハマるのも如何なものか。小一時間ほど堀端をめぐって退散した。広場では自衛隊の面々が重機を使って除雪作業をしていた。
お城の北側にある染め物工房で、藍のストールを買う。これは自分用。白のシャツに映えそう。
お城から色々と迂回しながらいったん駅の方角へもどる。住宅地では二度コケました。狭い道を車が何度も走ると雪が圧し固められてつるつるになってしまう。
駅から二十分ほど歩いて『三忠食堂』に到着。昨日の一ぱい呑み屋の客に教えてもらった店。なんでも津軽蕎麦の名店で、あるらしい。寡聞にしてそういうものがるとはしらなんだ。客の話と、食堂の御主人にうかがったところをまとめると、
①蕎麦のつなぎには大豆を使う(呉汁なのかな?)
②打ったあと一晩ねかせる(茹でたあとだったかもしれない)
③出汁は鰯の焼き干しでとる
という独特の作り方である。たしかに、蕎麦はもにゃっと柔らかかった。ま、「優しい味」といったところか。賞すべきはこの出汁で、煮干しではなく焼き干しのほうがきれいな出汁がひけるとのこと。なるほど清澄で香りがよい。その邪魔をしないように、津軽蕎麦には砂糖などの甘味も用いないらしい(普通の鳥なんばん等には使う)。まん中にストーヴがごうごうと燃えているいい按配に古びた店で、こういう話をききながらのんびり蕎麦をすする気分は悪くないものだった。
食堂からもどる道に津軽塗などを扱う器やがある。これも『たむら』で聞いてきた。重厚華麗な津軽塗の色彩は、冬の長い雪国なればこそ映えるんだろうな。いい感じの店だったが、ここでは買い物はせず。
さて昼からはどう致そうか。青森のねぶた館がよかったのを思い出し、もう一度城の傍にあるねぷた観光館に足を向ける。入り口ではねぷた囃子の実演。いってみれば、青森のコン・ブリオに対するにこれはセリオーソとでも形容したくなる調子。殿様のお膝元であったかららしい。そういや、ねぶ(ぷ)たにしても、当地のものはより古拙の味わいを濃く残しているように思われる。
実演の最後は、見物客一同で「ハネト」のまねび。鯨馬も団体客に交じって跳ねてみた。手をかざし腰をくねらす踊りとはちがって、原始的なよろこびが直に身ぬちを突き上げてくる感じ。汗を飛ばして集団でハネたら熱狂忘我の境に到ること疑いなし。
最後が津軽三味線の生演奏。ツアーの団体は解せぬことにどこかに消えてしまっている。次の観光地へ向かう時間となったのか。定刻に座っていたのは当方ひとりであった。
旅先ではしばしば出くわす、少なからず気まずい場面。しかしこういうこともよくあるのだろうか、二人の演奏者は坦々と弾き始めてくれたので助かった。
青森好きが恥ずかしいことに、津軽三味線はこれが初めて。つい目の前で弾かれるとちょっと凄いような迫力である。とりわ高校生の女の子がきまじめな表情で弾いている、その風情がよかった(女子高校生に興奮しているわけではありません)。
それにしても津軽塗やねぷたの色彩、囃子や津軽三味線の豪壮な響き、いわゆる「東北」のイメージをことごとく覆すような何かが青森の文化にはある。その何かは、簡単に「縄文性」と言って片付けたくない気がする。ゆっくり考えてみたい気がする。
青森の青森性とは何であるかという大問題はそれとして、猛烈に腹が空きました。昼食はかけ蕎麦一杯で、しかもその前後に散々歩き回ったのだからこれは当然のこと。
今から店を探して歩くのも情けない気分になりそうだし・・・とまったく期待せずに観光館に併設されている食堂に入った。
これが嬉しい誤算だったのですね。名前は思い出せませんが、「青森の郷土料理尽くし」みたいな定食で、
・かやき(味噌と玉子を帆立の殻の上で焼く)
・八戸(八戸!)さばの令燻
・けの汁(けの汁!)
・はたはたの煮付け(たっぷりの海藻が副えてある)
・いくら醤油漬け
・にしんの切り込み(麹漬け)
・一升漬け(唐辛子の麹・醤油漬け)
・漬け物(大根浅漬け、蕪の甘酢漬け、長芋の梅酢漬け)
という豪華版である。容易に想像できるはずですが、これみんな酒の肴にぴったり。ビールのあと、これらのアテで酒を三合、ちびちびやって極楽にいった心持ちでありました。また、横を見ると屋根に分厚く雪が積もった上に、時折日の光が射すかと思えば小雪が舞うという眺めですからな。酒がすすむだけでなく、一句詠みたくなる。
そこからまた雪道をよちよち戻り、ホテルの温泉につかるとさすがに「う゛ぁ~~~」となんとも形容しがたい音が喉をもれた。で、夜まで一眠り。
この日の晩飯は『ふじ』だったかな。昨日とは趣が変わって、関西弁でいうところの「しゅーっとした」店。頂いたのは、
・牡蠣豆腐の揚げ出し(津軽塗の椀)
・平目の昆布締め(平目は青森の県魚)
・鮟鱇のとも和え(これが尤物!部分部分で食感が変わり、こってりしていてしかも清爽。冷酒も燗酒も、なんぼでもイケます)
・なまこ酢
・白子天ぷら
・かに雑炊
浮かれて雑炊なんぞを頼んでるところ、我ながら浅間しい。総じて器の趣味もよく、料理も端正なものだったが、どれも無闇に量が多かったのが津軽流儀というところか。
最終日は簡略に記す。最勝院の五重塔(東北では珍しいらしい)を見物したあと、城の南西に広がる禅林街へ。すべて曹洞宗の寺院であり、見事に雰囲気が統一されている。それにしても曹洞の寺は雪に似合うなあ。法華や真宗ではこうはいかない。と妙なところで感心する。
昼飯はイトーヨーカ堂のイートインコーナーで。スーパーの惣菜を買ってきて呑む。初日の書家が言うには「あそこの惣菜、結構郷土色あるわよ」。仰せのままに、と参上したわけである。ま、いちど旅先のスーパーで買い物⇒食事というのをやってみたかったのでもありますが。この時に買ったのは、
・わらびのおひたし
・いかげそのミンチ揚げ(「いがめんち」である)
・ほたてのとも和え
・サメのおろし和え
・真鱈子の漬け込み
本当は人参の子和えや蕗のいためたのやさもだし(キノコ)等も買いたかったのであるが、オッサンひとりがテーブルにそこまでおかずを広げるのも異なものか、と多少の遠慮がはたらいた。カップ酒とビールをのみながらわらびをつついてるだけでも充分異な光景だったろうけれど。
次回の弘前旅行では、残りの惣菜をコンプするつもりであります(結局は人眼を気にしてない)。
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