真夏の果実

  給料も出たし、呑みに出ようかな・・・と思いつつ一応スーパーに寄ってみると、魚が色々安かったので、急遽「家呑み」に切り替える。

  穴子(生。三尾)は皮目に熱湯をかけ、包丁の背でぬるぬるをこそげたあと、白焼きして、半分はそのままわさび和え(三つ葉と海苔)にし、残りは穴子の頭・醤油・みりん・酒の出汁でことこと煮含めていく。これは明日穴子丼にして食べよう。次はうおぜ。半分はバター焼。タイムとオレガノの風味をちょっぴりきかせる。残りは素焼きにして南蛮漬けに。これも酢がしみて美味しくなるのを待って、明日のおかずとしましょう。活けダコの下ごしらえは例の如し。塩もみして、熱湯で軽くゆがき、半分はサラダに、半分は桜煮に。桜煮も明日のおかずだな。

  さて、たこはキュウリ・ニンニク・レモン・トマトとサラダにする予定だった。トマトはわが職場菜園でとれた完熟モノ。切ってみると、芳烈なトマトの匂いが拡がる。「ホンモノかどうかは味よりもむしろ匂いに出る」というけれど、これだけ濃厚な匂いは久々。一きれを口に入れると、甘い!甘い!そして旨味も濃い!これはオリーヴオイルやニンニクを使ったのでは艶消しだ。急遽トマト「一人舞台」に切り替える。

  塩トマトだのプレミアムトマトだの、色んな商品が並んでいるけれど、やはり流通の都合上、枝で完熟まで待ったトマトにはそうお目にかかれない。そう考えると贅沢だよな、とご機嫌に焼酎のカボス割りを呑む。荻正弘か篠田一士か、それとも檀一雄かが、食物随筆の中で、空豆狂のことを書いていた。瀬戸内の島を買い切ったその人物は、その島で極上の空豆を丹誠こめて育て、毎日新鮮な空豆を堪能しているらしい。

  新鮮な魚、どこそこの牛肉、みんなそれには熱心だけど、それに比べると野菜の扱いのぞんざいなこと、驚くほどである。トマトだって(ごくありふれた種類のものだと思うが)、ちゃんと育てていい時期に収穫してすぐ食べたら、ここまでおいしくなるのになあ。

  島を買うか。