君知るや レモンの花咲く国

  ご存じゲーテのミニョンの歌。元来《北方志向》を自認していたけれど最近はそれもすこぶる怪しくなってきた。というのはこの数ヶ月というものイタリアにぞっこん夢中という感じなのである。

  きっかけといえば・・・実人生の恋愛と同様、複合的なものでこれとはっきり意識しているわけではないのだが、双魚書房通信で紹介したモームの『昔も今も』など、イタリアに題材をとった小説をたまたまながらいくつか同時期に読んだことが、やはり大きかったような気がする。

  まだうまく分析できていないが、こちらを惹きつけるいちばんの要素は《多様性》でなのだと思う。どの国にだってそれぞれの地方色はあるとしても、都市でいえばミラノフィレンツェヴェネツィア、ローマ、ナポリ、山水ではアルプスから地中海までの拡がりをもつ国はそうそうないだろう。それに何といっても歴史の厚みが断然違う。


  とはいっても、故多田智満子さんの「漫画的な在日ヘレニスト」という表現(多田さんは人も知るグレコフィルであったが、ギリシア語ができなかった。そのことをユーモラスに自嘲しているのである)そのままに、こちらも「漫画的な在日イタロフィル」である。すなわちイタリア語は眼に一丁字なく、イタリアの地を踏んだこともない。ないが、三十七歳にもなって(人の世の旅路の半ば!)イタリア語習得の野望はみぬちを焼くほどアツイ。出不精ながらイタリアへの旅行なら、と思うだけで足が浮き立ってくる。

行くならまずどこか。そりゃヴェネツィアですよ。イタリアの《多様性》と《変幻自在》ぶりをいわば一身に凝縮したような街なのだから(と思う)。

今出来ることは何か。イタリア語のちいちいぱっぱの他にはやはり料理でしょう。というわけで現在『イタリアの地方料理』、吉川敏明『イタリア料理教本』(どちらも柴田書店刊)を読んでせっせとノートをとっているところなのである。研究の成果(精華)はいずれまた拙宅でご披露します。むろんその顛末は当ブログにて披露します。