革新おでんと保守てっちり

 まる。と元町で痛飲す。

 入ったのはおでん屋。醤油味ではなく白だしで炊いたというおでんの味はまずまず。主人の神経質な感じはあまりおでんになじまないように思う。

 まあそれでも久々にまる。と語れてよかった。

 初めはまる。が経営するオンライン英会話スクールLangrich(ちかごろ巷で評判のアレですアレ)(と少しばかし宣伝)の進展ぶりなぞを聞いていた。ここまではフツーに仕事の話であるが、学生時代にエドマンド・バークの『省察』を読んで感動したというまる。は、最近ハミルトンの評伝を面白く読んでいると言う。

 この路線、いいですね。いかにもヴェンチャー企業経営者の選択という感じがする。そういえばトクヴィルの評伝も最近出てたよなあ。とまれ日本の《保守》思想家のうさんくささと虚妄について高談する。

 まる。を終電で送ってからさらに呑む。それにしても最近のMKタクシーの繁盛たるや、すさまじいものがある。待合では整理番号がついに三ケタに達していた。まあ、安さは別にしても、他のタクシーのマナーの悪さを思えば、当然の結果ではある。あれは資本主義の精神に反すると思いますよ。改善しようという声がどこからも出て来ないのが不思議でしようがない。よほど業界自体が腐敗しとるんでしょうな。

 翌日はしかし、二日酔いでもなく朝から水槽のメンテナンス。

 一年以上飼っていたスネークヘッドが年末に何を思ったのか、フタの隙間から飛び出して昇天。主のいない水槽で水草が青々と繁茂しているのを見て哀しくなる。

 掃除を済ませて講談社選書メチエ版の『西洋哲学史Ⅰ』を読む。ハイデガーニーチェの章(この本ではパルメニデスハイデガーが同じ巻に入っているのだ)が面白い。

 夕方はジムでスイミング。今日はクロールのレッスンである。こちらの泳ぎを見ていて、「ずっと直したいなと思ってました」とコーチ。でへ。綺麗なフォームに直していただきましょう。

 ひとしきり泳いで、スーパーに向かう。さあてっちりや。

 唐突にてっちりが出て来ましたが、これには一応理由がある。最近田辺聖子『道頓堀の雨に別れて以来なり 川柳作家・岸本水府とその時代』上下を読み上げたのである(全集版)。

 といってもまだ唐突だろうな。この大著は無論、岸本水府の評伝という体裁をとっているのだが、それにはとどまらない。明治以来の日本川柳史の通史でもあり、大阪の町の人間が見た開化史にもなっている、という端倪すべからざる本なのである。とくに、延々と続く実作の引用から、水府をはじめとする幾多の川柳作家それぞれの作風を綺麗に提出して見せた、その手際がすごい。

 今はしかし、本の文学的価値は措く。肝腎なのはここに描かれた、戦前、とくに日中戦争が始まるまでの平和で安逸な日々を送っていた大阪の都市生活の、今にして思えば夢のように豪奢であること。田辺さん自身どこかで「爛熟」ということばを使ってらしたと記憶するが、まさに爛熟の極みである。商いにたっぷり実質があり、そして東京に対する妙な対抗心もなく、阪神タイガースへの熱狂で人気が荒れていない頃の大阪への郷愁は、以て二一世紀の神戸市住民をしててっちりへと駆り立たしむるに足るものであった。とは言い方が大層か。

 淡泊なてっちりに、常用の『菊姫』は濃醇にすぎる。この日は『鳥海山』の吟醸をぬる燗でやった。

 ふだん晩飯に米粒は食べないが、さすがにこの日の雑炊は逃せない。堪能いたしました。 

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