器の方円

 梅田阪急「暮らしのギャラリー」での飯茶碗・湯呑み展に行ってきた。時間をかけて選んだ結果が、つくも窯・十場天伸さんの飯椀と小代焼ふもと窯・井上尚之さんの湯呑みというので、我ながら可笑しい。いつも『いたぎ家』で手に取るものばかりなのだ。アニーの薫染、かくの如し。あと一つは前野直史さんの六方皿。片身替りに釉がかかっていて桃山時代の小袖のよう。大ぶりの焼肴などは映えるだろうなあ。真魚鰹の幽庵なぞいいだろうなあ、とひとしきり空想を逞しくする。

 

 大阪に、しかも買い物に出ることは滅多とないので梅田から天満へと向かう。『烏盞堂』なる器屋に行ってみたかった。インスタグラムで知った店。

 

 お目当ては安洞雅彦氏作の向付。全て織部である。普通の大きさの織部だと素人では中々使いこなせないが、このシリーズは豆向で、掌に乗るほどの大きさ。これなら何とかなりそうである。ただし種類が多い。二百ほどあったのではないか。驚いたことに、この全てに本歌があるのだそうな。

 

 資料あつめが大変でしょうねと言うと、安洞さんは本屋・古本屋では「織部」と文字の入った本を全部買っていくとのこと。本歌の器は、形・模様でどこのミュゼ(寺社・店)の所蔵か、すぐに分かるらしい。

 

 うーんと唸るしかない。

 

 店主の佐々木さんが振る舞って下さった薄茶を頂きながら、こういった話を色々伺う。店売りよりは飲食店への卸が中心で、それも単に器を売るだけでは無く、料理との組合せをアドバイスしたり、時には料理のアイデアを出すこともあるそうな。某鮨やの付け台を設計したこともあるという。食の綜合プロデュース業といったところか。

 

 織部の向付を大量に仕入れることからも分かるだろうが、佐々木さんの好みはややクラシックの方(どうでもいいことながら、当方の趣味に近い)。「クラフト系」には距離を置いている。民芸全盛の時代にあってこういう見方は面白いな、と午前中に民芸作家の器を買ってきた人間は思う。

 

 散々迷ったあげく、二つに決めた。すると佐々木さん、「古いものはお好きですか」と、塗りのお盆をおまけに付けてくれた。なんだか海老で鯛を釣ったような。いやこれは安洞氏に失礼だな。

 

 和食、特に鮨(ご当人曰く「わたしのライフワーク」)が好きな佐々木さんはインスタグラムに旨そうな店を沢山投稿している。この日の夜も佐々木さんが上げていた鮨やで予約していたのだった。

 

 「あ、『川口』さんね、愉しめると思いますよ」。

 

 こう聞くと、期待が一層高まるというもの。なので、『烏盞堂』を出た後、かなり空腹だったけど、昼は天神橋筋蕎麦屋で軽く済ませた。

 

 さらにコンディションを良くするため、谷六の大阪古書会館まで歩き、《全大阪》の古書市をのぞく。由良君美の見たことがない本があって、これは掘り出し物だった。それにしても、和本はほんとに出なくなったなあ。

 

 谷六から空堀商店街を抜け、熊野街道を南へさしてずいーっと。上町というと当方にとっては「おっさんの見舞いに行くところ」というイメージで、あまり意識したことはなかったが、そこここに落ち着いた住宅街が残っていて気分良く歩ける(ついでに言えば、「おばはんの見舞いに行くところ」は今里である)。

 

 さて、『川口(かわくち)』さんですが、「愉しめ」ました。店構えも、雰囲気も、御主人の男ぶりも、よろしい。肴・鮨も奇を衒わずかつ清新。厚岸の新若芽を魚の出汁で炊いたのなど、洒落ている。さえずりのぬたも、大阪の鮨屋らしくていい。ノドグロ(炙り)もこの店で食べたのが一等旨かった。

 

 そうそう、器も趣味のいいのを使ってましたよ。『烏盞堂』主人が仰るとおりで、「器は料理を盛り込んでこそ活きる」のです。

 

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